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たとえば。
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1:
あや
例えば、あたしの香りがあんたに移るぐらいに一緒に居て
例えば、何でも無い会話をする為だけに電話をして
例えば、月曜日に一緒に休みを取って
例えば…2008-09-27 01:09:00 -
52:
あや
押し倒され、必死にもがくあたしの手を押さえつけたままキスをされた。
『えっ………』
真っ直ぐにあたしを見つめる彼の目から、視線をそらせない。
『…ごめん。嫌やったらゆって。』2008-09-28 02:12:00 -
53:
あや
…嫌。なんて…言える訳が無いのに。
きっと、誠もそれに気づいてる。
それでも…あたしは誠が好きだから…誠が少しでも楽になるなら…
体で寂しさをまぎらわす事は出来ても、埋める事は出来ない。一年前のあたしがそうだったから。
“彼女”の代わりなんだ。いや、もしかしたら代わりにすらなれないかもしれない。…それをわかっていても、あたしは誠を求めた。2008-09-28 02:19:00 -
54:
あや
『誠…まこと………』
何度も絶頂を迎えながら、頭の中にはあの日見た誠の笑顔が思い浮かぶ。
…この日あたしは、自分が愛されているのかが分かるセックスがあるなんて事を初めて知った。
あたしを抱く誠の瞳は黒く濁っていて、まるであたしを見ずに遠くを見ているみたいだったから。2008-09-28 02:24:00 -
55:
あや
『あや…ごめんな…』
あたしを抱きしめながら、何度も耳元でそう呟くその言葉に聞こえない振りをして、目を瞑った。
今の誠はあたしを見ていない。
あたしは必死で、あたしに向けられた誠の笑顔を思い出した。
謝って欲しくなんかない。被害者なんかじゃなく、共犯者だから。2008-09-28 02:30:00 -
56:
あや
“色”だとか“好きな人が居る”だとか…
考える事は沢山あった。
けど…今は何も考えず、ただこの温もりを感じていたい。
“彼女”は誠で寂しさをまぎらわす。“誠”は“あたし”で寂しさをまぎらわす。
端から見れば本当に馬鹿な女。都合の良い女。それは自分が一番よく分かってる。でも理屈じゃない。道徳なんて知らない。あたしはこれが悪い事なんて思わないから。2008-09-28 02:44:00 -
57:
あや
先の無い事なんて、分かりきっていた。
八割の哀しみと絶望。
けど…残されたたった二割の希望や安らぎの為に、あたしはこの道を選んだ。
2008-09-28 11:58:00 -
58:
あや
『…おやすみ。』
事が終わると、あたしの右手を握りしめすぐに寝息を立て始めた。
もし、ここであたしが“付き合って”なんて言葉を放ってしまえばすぐに終わりを迎えるだろう。体を重ねれば何かが変わるかもしれない。そんな期待はどうやら無駄に終わったようだ。
…冷たい左手で目から溢れ出る温かい液体をぬぐい、熟睡出来ないまま朝を迎えた。2008-09-28 21:22:00 -
59:
あや
愛しい、愛しい人の横顔。どうして女は体の関係を持ってしまえば感情が入ってしまうんだろう。
どうして覚悟を決めたはずの事が割りきれなくなるんだろう。
行為の最中すらも“愛情”なんて感じられなかったのに。
あたしはそっと繋がれたままの右手をほどき、冷蔵庫に向かうと野菜ジュースを取りだし一気に飲み干した。『あや…?』2008-09-28 21:27:00 -
60:
あや
『あっ起きたん?ご飯食べる?』
『うん…』
『じゃあちょっと待っててな。すぐ作るし。』
誠がいつか大好きだと言っていた半熟の目玉焼きを作り始めた。ベタだけど、トーストとハムエッグ、それにサラダにしよう。
こんな事をしていると、まるで“恋人同士”の様な錯覚すら覚える。2008-09-28 21:31:00 -
61:
あや
『コーヒーはブラック?』
『ううん。えーっと…』
角砂糖を一つと、クリープをスプーンに半分。
そんな事すらも誠を知っていくみたいで嬉しかった。パンをかじりながら笑う彼が、愛しくて愛しくて仕方無い。
人は、何て欲張りな生き物なんだろう。何かに満足しても、また次、次はこれ。そうして黒い渦がどんどんお腹の奥の方から広がっていく。2008-09-28 21:38:00