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  • 1:

    ヨミ。

    カンカンカン。
    遮断機の音が遠くで響く。否、実際は目の前の出来事なのだが憔悴仕切った身体には自分の身に此れから降り掛かるであろう現実を理解するだけの余裕は残されていなかった。
    右に左に素早く移動する赤い光を呆然と見つめ、遠くからやって来る[回送]と表示された電車へと視線を移す。田舎なだけあり、夜中になれば人通りは全くと言って良い程に無くなってしまう。冷たく冷えた夜風に髪をなびかせながら、目の前を通り過ぎんとする電車の前へ足を踏み入れる。  と、その時。

    2010-03-31 04:07:00
  • 2:

    ヨミ。

    卵焼きの匂い。
    窓から入る光に布団を手繰り寄せて頭を覆い隠す。
    布団の中で素足を何度か擦り合わせながら、枕元の携帯電話へと手を伸ばす。  (ちょっと待った)    まだ覚め切らない頭を布団の中からぴょこんと出し、閉じたままの携帯を握り締めて壁に掛けられた古い時計へと視線を向ける。  『やっべ!!!』     布団から勢いだけで飛び起き、枕元に畳んであるカーディガンを手に取って袖を通しながら器用に階段を駆け降りてゆく。時計の短針は六の文字を指していた。今日は休日で学校も休みだ。然し、そんな事もお構い無しとばかりに達巳は廊下を滑る様に走った。

    2010-03-31 04:30:00
  • 3:

    ヨミ。

    『涼夜さん!!!』
    台所の入り口へと手を掛け、勢い良く顔を覗かせればふっくらとした見るからに美味しそうな卵焼きが皿に盛り付けられている最中であった。
    『すいません!今すぐ手伝いますんでそこ、置いといて下さい!』
    食卓の上を拭いてしまおうと調理台の上から布巾を引ったくると、涼夜の返事も聞かずに居間へと走り去ってしまう。       『あ、達巳君。卵焼きで良かったでしょうか。目玉焼きの方がお好きでしたっけ』台所から問い掛けてくる涼夜の声は落ち着いているものの、とても良く通る声だと達巳は食卓を拭きながらそんな事を考える。隣の部屋だという事もあるのだろうが。         『卵焼きで大丈夫です!』こちらは声を張り上げなければならないと言うのに。まぁ、急いた気持ちのまま返事を返しているからなのかもしれないのだが。

    2010-03-31 04:44:00
  • 4:

    ヨミ。

    『休日くらいゆっくり休まれたら良いと思いますが』漬物へと箸を伸ばし、視線は箸の先へと落としたままで口を開く。
    『そういう訳には』   達巳も卵焼きを一つ箸で掴み、大きく開いた口の中へと放り込んでしまう。  『世話んなってるんで』 ごくり、と音を立てて喉を通し、悩む事無く焼き魚へと箸を立てる。
    『生活費は頂いてますよ』『あ、はい。でも生活費とかとは別に。そもそもアレは両親が用意してくれてるもんなんで、俺は俺で家の事は任せてもらってる身なんで』          パジャマの上からカーディガンを羽織る達巳とは違い、朝も早いと言うのに紺の着物を着こなし、達巳の言葉にぽかんと口を開けて動きを止めている。    『相変わらずお堅い』  『いや、涼夜さん程じゃあ無いと思うんで』    言い、達巳は縁側へ続く開き戸の窓から外を眺める。『梅、もう少しですね』 『春も近くなりましたね』庭に植えられた梅の木には幾つかの蕾が並んでいる。『今日も仕事で?』   『ええ、夕方までには』 達巳の質問に淡々と答え、涼夜は一つ咳払いをする。『今回の仕事もなかなか』『へぇ』        怪しげに双眸を細める涼夜の表情を伺い、上機嫌だな、と心の中で呟く。    『ま、拾い物ですが』  そう言葉を洩らした涼夜の声に震えを感じ、辰巳は無言でカーディガンを手繰り寄せた。

    2010-03-31 05:05:00
  • 5:

    ヨミ。

    『と、言う訳でさ』
    『諦めろって?』    畳の上を雑巾掛けしながら縁側に腰を下ろして首だけを振り返らせる少女、那須尋乃へと頷き返す。   『あ〜冗談じゃない』  頷く達巳の姿を見、大袈裟に首を左右に振って見せる。           『あんた暇でしょ』   『忙しくは無いけど』  特に友人の約束も無い達巳は尋乃に返事を返しながら、これからどうするつもりだろうかと立ち上がる。 『涼夜さんが帰ってくるまであんたが相手しなさい』『はぁ?そんな身勝手な』あたしの我儘は今に始まった事では無いでしょ。  尋乃は言い、外の風に身震いすると有無を言わせずに部屋の中へと転がり込む。『帰りは夕方になるって話だったけど?』     居間に置かれた小さな本棚から一つの小説を手に取り、壁ぎわから座布団を一枚持ち出すと、食卓の隣へと静かに下ろす。     『夕飯もお世話になるつもりだから別に良いわ』  『お世話にって、また喧嘩でもしたの?尋乃』   布巾を手にしたままこちらを見下ろす達巳へと視線を上げたが、気にする様子も無く、すぐに食卓の上に置かれた煎餅へと視線は注がれた。

    2010-03-31 12:14:00
  • 6:

    ヨミ。

    『素直じゃないなぁ』  尋乃の天邪鬼的な性格は本人が言う通り、今に始まった事では無い。     学校の中でも和気藹々と楽しげに談笑をしていたりもするのだが、その性格故、中学校では喧嘩が絶えなかった。          女同士のもめ事とはここまで質の悪いものなのかと尋乃を庇いながらそんな事を思っていた気がする。  『女性に怨まれる様な事はしないで下さいね』   貴方を地獄に落とすには気が引けます。      涼夜は微笑み、涼しい顔でそんな事を呟いていた。 『…地獄』       仕事上の話ではあったのだろうが、あの男に罰せられる位ならば彼女を作る事すら躊躇われる。小説を読み始めた尋乃は周りの声が聞こえ無くなってしまう。次の貢を捲り、尋乃の瞳は凄まじい動きで規則正しく並ぶ文字の上を走る。家事の続きをしてしまおう、と台所へと向かう。晴れていると言うのに重たい何かが転がる様なごろごろという音を発しながら、雲は流れてゆく。二人共がそんな事に気が付かないまま、思い思いの時を過ごしていった。

    2010-03-31 12:39:00
  • 7:

    ヨミ。

    『夢を、頂きましょうか』とある喫茶店の一番端の席にその男女の姿はあった。『夢、ですか』     『ええ』        主婦らしい落ち着いた服装の女性の正面に腰を下ろした男、北条涼夜は口元で手を組み、机に肘を付いて女性の顔色を伺っていた。 『金、では無く夢、です』 『お金を払わないだなんて。それに夢だと言われてもどうすれば良いのか…』 不安げに眉を下げる女性の問い掛けに涼夜は組んだ手を崩し、柔らかな笑みを浮かべて見せた。
    『人はね、睡眠中に脳の中を整理するらしいのです』『はぁ』        涼夜の表情に見惚れる様にして女は頷く。     『その時に脳が見せる映像なんですよ。夢、とはね』 『えぇ』        真剣な眼差しで言葉を紡ぐ涼夜を見つめていた女はふと、我に返った様に瞬きをする。         『しかし、その夢をどうしてしまうおつもりで?』 仮にもし、夢を引き渡す事が出来たとして、彼は何を得、自身は何を失ってしまうというのであろうか。 男の瞳は真剣そのものであったが、金は要らぬから夢をくれだなんていう様な変な話は聞いた事が無い。 ただからかわれているだけなのではないだろうかと、そう考えるのが妥当だ。

    2010-03-31 13:09:00
  • 8:

    ヨミ。

    『何に使うのかと問われてしまえば答えかねます。金を何に使うのだと、そう問われてしまう様なものですからね』        顎に手を当て、少し考える様な仕草を見せた後、涼夜はふと口を開いた。   『一つだけ、お教え致しましょうか』       男の言葉に女は素直に頷き、珈琲カップを片手に期待に満ちた瞳で涼夜を見つめる。
    『表の世界では知られていませんが、夢買いという存在がいましてね』    物語を語る様に静かに口を開いて言葉を紡ぎ出す涼夜の声色は暖かく、人を惹き付けるものだった。   『私は謂わば夢売り。闇の中から貴女の様な迷える子羊を助けては夢を頂いているのです。その夢は言葉の通り、夢売りに売り渡す。そういう仕事を私は生業としております』      これ以上は語る必要が無いでしょうと小さく頭を下げて見せる。       『そんな仕事が…』   『人を闇の中から救い出すという事は決して簡単な話じゃあない。況してや命を投げ出そうとしていた貴女の様な人は特に、ね』  その言葉に女は息を飲む。

    2010-03-31 13:57:00
  • 9:

    ヨミ。

    幼い子供がいるのだと、女はそう言った。旦那はと言えば朝から酒を飲み、仕事もせずに寝てばかりなのだと言う。それに対して正当な言葉を述べれば暴力を受けてしまう事もあるという。半ば家出の様に実家を出て来たもので、帰る事は疎か、両親の声すら何年も聞いてはいないのだそう。そんな絶望的な生活の中、心は見る見る内に廃れていき、我が子の事を考える余裕も、生きる為の僅かな光すらも見付けられず、気が付いた時には踏切の前で地面に手を付いていたと言う。

    2010-03-31 14:07:00
  • 10:

    ヨミ。

    『貴女は一体、どうしてしまいたいのでしょうか』 全ての事情を聞いた上で涼夜は女にそう問い掛けた。『裕福な生活を望もうとは思いません。普通の、極普通の家庭にある幸せを手にしたいのです。娘を、人並みの幸せで包んであげたい』
    そう答える女の瞳には涙が浮かび上がり、ほろりと頬を伝い、落ちてゆく。   『貴女が人並みの幸せを手にする為には、どうするべきなのでしょうね?』  胸元から和柄の手拭いを取出し、女の前へと差出す。 何度も頭を下げて差し出された手拭いを手にし、瞼を覆い隠したまま震える唇で言葉を紡いでゆく。   『旦那を…、旦那を』  『仰せのままに』    こんな処で口に出させる言葉では無いだろうと涼夜は一つ頷いて見せる。   公共の場だという事を忘れた様な女の泣きじゃくる姿に呆れる事も無く、只黙ってその姿を眺める。    (この者の夢は、どんな味なのでしょうねぇ)    そんな事に思考を巡らせながら、涼夜は誰にも気付かれ無い程微かに唇の端を持ち上げた。

    2010-03-31 14:25:00
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