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好きと言いたかった
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1:
まり
今朝はインターホンの鳴る音で目を覚ました。インターホンを見ると50半ばのスーツを来た男が立っていた。
『朝っぱらからセールス?』私は居留守をすることにした。
2010-12-10 14:46:00 -
199:
まり
『でね、その偏食してるチビを僕が甘やかすと君は怒るんだ。「もう!好き嫌い言わずに食べさせないとダメでしょ」ってね?』
『え?私?』
『そうだよ。マリちゃんは僕のお嫁さんになる人だから。きっと今はこんなに優しいマリちゃんも、結婚してチビが出来たら怖くなるだろな〜』2011-01-14 11:55:00 -
200:
まり
『なにそれ』
少し肌寒い季節、病院の敷地内を車椅子を押してのんびりと散歩している。手放しで幸せと言えた風景では決してなかった。それでも、私にとっては久しぶりに感じた温もりが確かにそこにはあった。2011-01-14 12:01:00 -
201:
まり
『藤堂さん、あんまりウロウロすると身体によくないから、そろそろ戻ろう?』
そう言って車椅子を押す私の手を藤堂さんは握って、私の話しを聞いてはいないと言う具合に話しを続けた。2011-01-14 12:04:00 -
202:
まり
『それでも、帰ると君とチビが玄関に出てきてくれて、「お帰り」って笑顔で出迎えてくれる。それだけで僕は、また明日も頑張ろうってなれる。贅沢なんて要らない。大好きな人と、可愛いチビに囲まれて』
そう言って藤堂さんは私の手を前を向いたまま、ギュッと握った。2011-01-14 12:09:00 -
203:
まり
『藤堂さん、それってプロポーズ?』
照れ臭くて私はおちゃらけた聞き方をした。藤堂さんはクスッと笑い返した。
『さっ戻ろ?冷えちゃう冷えちゃう』
藤堂さんは車椅子を押す私の手に器用に手を合わせたまま車椅子にもたれながら私の話を『うん、うん』と聞いていた。2011-01-14 12:13:00 -
204:
まり
『私の小さい頃の話なんて大して面白くないでしょ?あっ!でも、これなら面白いかも!私が幼稚園の時にね?ん?藤堂さん?』
病室に付き、足を止めると藤堂さんは優しい笑顔を浮かべて目を閉じていた。2011-01-14 12:19:00 -
205:
まり
私は藤堂さんの横にひざまずき、藤堂さんの手を膝に置き直し話を続けた。
『幼稚園の時にね…先生の顔がっ顔が…怖くて…私、門にね…しがみついて、離れなくて…わんわん泣いて…なぃ…門にしがみついてるから…付いた、あだ、あだ名が…セミだったのぉ…笑えるでしょ?』2011-01-14 12:24:00 -
206:
まり
私は自然と溢れる涙を、どうしても止めれず、しゃくりあげながらも藤堂さんが聞きたがった“私の話”を続けた。
そんな聞き取りづらいだけの私の話を藤堂さんは優しい寝顔で聞いていてくれた。2011-01-14 12:27:00 -
207:
まり
『私…まだ、プロポーズの返事…してないよ?』
藤堂さんは私の返事を聞くこともせず、一方的にプロポーズをして逝ってしまった。
それからは会社の役員の人達が次々に現れては、葬儀の事や、今後の経営について各々口にしては病室を後にした。2011-01-14 12:32:00 -
208:
まり
きっと、そんな藤堂さんだったから私の素性を知った時に、まずは何より同情したのかも知れない。
初澤さんに勧めてもらったが、葬儀には出ず、部屋でずっと手を合わせた。2011-01-14 12:41:00