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シンデレラ
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1:
ちぃ
2004.5/3。晴天。
見上げれば青い空。綺麗なブルーの宙に、白やピンクの花がフワフワと舞っている。
『おめでとー!』
次々に友人達から向けられる、お祝いの言葉。様々な過去を経て私はここに立っている。赤く紅く…何処までも続きそうなバージンロードの上に。眩しいほどに輝く純白のドレスに包まれて。この光は罪さえも柔らかく包んでくれる…。私な、アンタの魔法にかけられて、綺麗になったよ。2005-12-09 13:41:00 -
11:
ちぃ
『お母ちゃん…?』と不思議そうな声で呼び掛けると、ハッとした顔で、台所まで走っていってしまった。胸に隠しているキラキラした物が、異様にウチは気になった。いくら小さいゆうても勘は鋭く働くもんで、胸騒ぎがした幼いウチは、すぐさまお母ちゃんのいる台所までトコトコ走っていった。途中、6畳間を通りすぎた時にお父ちゃんを横目に見たが、酒で顔を真っ赤にしながらテレビを直視しているだけだった。
2005-12-09 15:39:00 -
12:
ちぃ
台所にいくと、電気も付けずにお化けみたいに下を向いてしゃがみこんでるお母ちゃんがおった。バサバサになった髪の毛で、お母ちゃんの顔がよう見えへん。うちは、目線をお母ちゃんの顔から首もとに落とした。その瞬間、目をまんまるくして口を手で覆った。
2005-12-09 15:49:00 -
13:
ちぃ
『ヒャッ!お母ちゃん…!』
お母ちゃんのガクガクと震えた手には、キラキラ光るものの正体。銀色に光る大きな包丁が握られていて、刃の先を首に触れるか触れないかと所まで持ち上げられていた。ガクガクと震える手から伝わる刃の先の揺れ…、ウチにも、お母ちゃんが躊躇ってるのが分かった。ソッと近寄るととビクッと肩まで震わせたお母ちゃんがウチの顔を見上げた。2005-12-09 15:56:00 -
14:
ちぃ
ほんまにお化けみたいやった。汗と涙で、ベットリと顔に長い栗色の髪の毛がへばりついてた。髪の毛の間から見える、涙で潤って包丁と同じくらいにキラキラ光る目が怖かった。けど、うちはニッコリ笑ってあげた。
『お母ちゃん何してんの?こんなん危ないやろう?お怪我しちゃうよ?ほら、包丁離してお母ちゃん』うちは、お母ちゃんの背中にへばりついて頭を撫でてあげた。またお母ちゃんの肩がかすかに震え出す。『お母ちゃん…?死んだらアカンよ…』背中から抱きついてそう言うと、ガタンっと手に握り締めていた包丁を無気力さに任せて床に落とした。うちは包丁を取り、包丁を定位置に戻した。泣き崩れる母の姿。若干4・5歳で知ってしもた忘れられへん泥沼。その後も、お父ちゃんとお母ちゃんの争いは前にも増して続いた。争いが始まるのは、いつも夜。争う声で目が覚めるとウチは必ず、隣で寝息を立ててる小さい弟が起きひんように、弟の耳を塞いでいた。2005-12-09 16:12:00 -
15:
ちぃ
(この子が何も気付きませんように……)
(お父ちゃんとお母ちゃんが、早く仲良しになりますように)
うちは、ベランダからお星さまにお祈りしてた。2005-12-09 16:14:00 -
16:
ちぃ
(お星さまになったお爺ちゃんにもお願いしてみたけど、ウチのお願い事は聞いてくれへんみたい。ウチが悪い子やから?好き嫌いするから?嫌いなピーマン食べられるようになったよ。だから、お願い叶えてください。)寒い夜も、白い息を弾ませてお願いしてみたけど、うちのお願いは天の神様には届かんかったみたい。幼い夢を粉ごなに打ち砕かれたのは、ウチが小学3年生で弟が小学1年生の時やった。
2005-12-09 16:23:00 -
17:
ちぃ
弟と一緒にご飯を食べ終ると、何やらお父ちゃんとお母ちゃんは忙しく出かける準備をしていた。うちの目線に気付いたお母ちゃんが『ちょっとお母ちゃん達な行くとこあるから、アンタらお利口さんして待ってなさいよ』気遣ってはくれているけど心ここにあらずなお母ちゃん。目が泳いでいる。お父ちゃんは黙りこんだまま、皮のジャケットに袖を通している。異様な雰囲気が漂う。うちはテーブルの下に置かれていたお母ちゃんの鞄を覗きこんだ。
2005-12-09 16:31:00 -
18:
ちぃ
『あれ?』気が付いたのは、一枚の紙切れ。気付かれないように開くと、お母ちゃんとお父ちゃんの名前が書いてあった。一瞬、自分の目を疑ったけど、これが何なのか聞かんくても理解出来た。これと同じ紙をテレビで見たことがある。テレビでお姉さんがお兄さんに『アナタとは離婚よ!!』と叫びながら、この紙をテーブルに叩きつけているシーンを見たことがある。
2005-12-09 16:40:00 -
19:
ちぃ
紙をソッと鞄に戻して、目線をお父ちゃんとお母ちゃんに戻した。
重たい空気が漂う2人に会話なんてない。
弟が指を加えながら、そんな2人の事を不思議そうに見ている。それに気付いたウチは『カッちゃん、チィちゃんと遊ぼう(*^_^*)』と声をかけて、何とか2人への関心を引き離した。弟もニコニコしながらトランプを始めてくれた。そんな、純粋無垢な弟の笑顔を見たら、何だか胸がキュッと傷んだ。2005-12-09 16:49:00 -
20:
チィ
(お父ちゃんとお母ちゃん……別れてしまうんやろか…。別れてしもぅたらウチラどないするんやろか…。)
ウチの小さい胸は、ドキドキザワザワしていた。『そんじゃ…行ってくるからね。』無表情のまま2人はアパートを後にした。2人を見送った、ドアの向こうはシトシトと雨が降っていた。静かになった部屋は、外の雨音と時計の音だけで、会話をなくした私達姉弟も静まりかえる空間に耐えられなかった。ウチは、やっぱり、いてもたってもいられなくって玄関から長靴と子供用のレインコートを引っ張り出してきた。2005-12-09 16:59:00