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◆黄昏の赤◆
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1:
緋恋◆lZf.ArgVp2
この街の月は赤く濁っていて気味が悪い。
赤い光が街を益々汚れたように見せる。
あたし達みたいな人間には美しい檸檬のような月明かりを望む事すら贅沢な事なのかもしれない。2007-05-28 23:54:00 -
251:
緋恋◆lZf.ArgVp2
だって仕方がない。こんな汚くてろくでもない場所で。
あたしも同じだけどこんな他力本願な考えの奴ばかりひしめいてて。
泣いたって嘆いたって悔やんだって、後戻りはできないのに。
自分を痛めつける事で何かから逃げようとしている。
どこに行ったって同じ。2008-03-13 01:40:00 -
252:
緋恋◆lZf.ArgVp2
あたしは顔を出した。
深い深い何かの底から。
今まで、結局は怖くて、底にどんなに悪態をついても、自分の意志で新しい場所に行くのを怯えてただけだ。
けどあたしは行けたよ。
アメがいたから。2008-03-13 01:44:00 -
253:
緋恋◆lZf.ArgVp2
水面の上にあると思い込んでいた光は、そこに行くとまたもっと遠くにある。
空の上に。
どこに行ったって同じ。
自分からは逃げられない。2008-03-13 01:47:00 -
254:
緋恋◆lZf.ArgVp2
何もわからなくても。苦しくても。
もがいてもがいて汚くても、生きていってやる。
いつか死んでなくなるなら、その日の為に。
その日までは苦しみ続けても。2008-03-13 01:54:00 -
255:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「アメ、約束しよう」
今度はあたしが力任せに膝の上のアメの頭を思い切り抱いた。
「………約束とか守ったことないよ…」
アメの顔をあたしの方へ、首がおかしくなりそうなくらい強引にぐるりと向かして強引に固定。
「…約束なんかじゃなくていい。あたしは勝手に誓うから」2008-03-13 02:03:00 -
256:
緋恋◆lZf.ArgVp2
もしかしたら、あたしとアメはいつか離れるかもしれないから。
今が絶対なんてないから。
確かな幸せなんかよりずっと確実な深さと痛みを持って、別れはやってくる。
お母さんとあたしが二度と会えないように。
ドクターとお母さんが二度と抱き合えないように。2008-03-13 02:07:00 -
257:
緋恋◆lZf.ArgVp2
もしいつか離れてもお互い迷子にならないように。あたしのエゴでもなんでもいい、そうしたい。
「もしこれから何があっても、何をわすれても、今の事だけは忘れない……
あなたがどんな人でも今のあたしはあなたが好き。
苦しみ続けて、できるならたまに笑おう。できるなら一緒に………」
2008-03-13 02:15:00 -
258:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「……熱烈な愛の告白だね…
コレうんって言わなきゃ俺、地獄行き?」
「地獄へでも…できるなら一緒に」
「アンジュはまだ子供だね。」
アメは少し困ったというような顔で笑った。その顔があまりにも不安げだったからアメの頭をゆっくり撫でた。2008-03-13 02:22:00 -
259:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「…………できたらいいね。そう思う。」
アメは起き上がるとキスしてきた。目を閉じる。
閉じなければならいんだと感じた。
こうやってまた溺れる。溺れ続ける。2008-03-13 02:27:00 -
260:
緋恋◆lZf.ArgVp2
言葉より未来より確かな感覚と温度。
あたしは今日から起こり得る全てに目を背けない。
だからアメ、困った顔なんてしなくてもあたしはもう全てを受け入れられる。
本当のアンジュになるんだ。
天使に。2008-03-13 02:34:00 -
261:
緋恋◆lZf.ArgVp2
不確かな理想でしかなくても。せめてそう思いたい。
2008-03-13 02:36:00 -
263:
名無しさん
鳥肌たつ?なきそーなる
ありがとうo(^-^)oまたまってます?くそおもろい?主だいすきじゃ(′・ω・`)2008-03-13 18:56:00 -
265:
緋恋◆lZf.ArgVp2
>>268
「パーティーしよう。パーティー、パーティー!!!」
そう言い出したのはスミトモ。そういえば、この街にもクリスマスがやってくる。寒くなったり暑くなったりの気温の変化が乏しい街だけど、クリスマス前にはちゃっかり騒がしムードになっていく。
汚れを塗り替える白い雪も厳粛なゴスペルもここには必要ない。
雨に濡れてただ濡れネズミになってしまうツリーは、外に飾られることはないけれど屋内には小さなツリーがちょこんと置かれていたりする。2008-03-26 01:10:00 -
266:
緋恋◆lZf.ArgVp2
娼婦達の赤い傘は金や緑、シルバーでサンタやトナカイのペイントを施すのが毎年のお決まり。
最近ではデコ傘なるものが流行して、ビニール製の人形を傘につけている奴までいる。
レイチェルも案の定ものすごい傘をさしていた。
傘のてっぺんにサンタとトナカイの小さな人形が飾られ、大きくmerryChristmasとゴールドでペイント、そのうえ大きなストーンとラインストーンでデコラティブに仕上がっている。2008-03-26 01:19:00 -
267:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「…重くないの、それ?」
「可愛いからいいの!!!!!あんたこそ何?クリスマスなのにダサい傘さして」
ダサいとか格好いいとかの目線で傘を見たことがないあたしはレイチェルの問いを笑って流した。
アメといつも一緒に入れるように買った大きな黒いこうもり傘はこれでも結構気に入っている。
2008-03-26 01:25:00 -
268:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「パーティー来るの?来ないの?来るよな!!!俺、全部出すからさ」
スミトモとは最近よく話す間柄にはなったものの、彼から誘いを持ちかけられるなんて初めての事で。
そもそもクリスマスを祝うという概念さえ忘れていた。
「いこうよ、アンジュ」2008-03-26 01:30:00 -
269:
緋恋◆lZf.ArgVp2
毎年クリスマスはそれ以外の日と全く同じように過ごした。誕生日も新年も毎日が同じだった。
なんだかむずがゆいような、どうしたらいいのかわからない気持ちでアメを見上げると柔らかく笑ってくれた。
「アンって笑うんだな……」
スミトモはまじまじとあたしの顔を眺めた後、「そーかそんなに楽しみか」と嬉しそうに笑った。2008-03-26 01:45:00 -
270:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「あたしだって楽しみだもん!!!!!!!」
レイチェルがスミトモの腕に絡みつき、傾いた傘から水滴が一気に落ちる。
「馬鹿つめたい!」、スミトモはレイチェルを軽く小突く。スミトモの目は愛情に満ちていた、レイチェルの気持ちはスミトモに前よりずっと届いているらしい。
「ほほえましいねえ」と笑うアメ。
「うん、アメもね」2008-03-26 01:52:00 -
271:
緋恋◆lZf.ArgVp2
あったかい光景であることは間違いなかった。
以前のあたしはこんな状況の中でも色濃い陰を見つけて、それを眺めた。
「ほほえましいよ、アンジュも」
影はもういない。消えたわけじゃない、影だけはもう見つめない。ふいにレイチェルと目があった。
びっくりした。2008-03-26 01:58:00 -
272:
緋恋◆lZf.ArgVp2
レイチェルの目はあたしを映して暖かく微笑んだ。
2008-03-26 01:59:00 -
273:
緋恋◆lZf.ArgVp2
スミトモとレイチェルが手を振って帰ってゆく。あたしはそれをしばらく見送ってアメと家路につく。
胸が痛かった。
「あの子、優しい子なんだね」
「………レイチェル?」
あたしは目で答えた。どうして自分がレイチェルに殴られたのか形にはならないけどわかったような気がした。2008-03-26 02:06:00 -
274:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「激しいけどね―多分そうなんじゃない?」
「うん、そう思う。」
「………優しすぎだね。君たちは」
絡まった糸を断ち切って欲しい。クリスマスにはサンタにそれを願う。また他力本願な事を願っているのに気付く。繋いだ手に力を込めた。2008-03-26 02:11:00 -
276:
名無しさん
更新ありがとう?
待ってました?2008-03-26 10:32:00 -
278:
緋恋◆lZf.ArgVp2
>>282
“優しすぎだね、君たちは”
アメの言葉があたしの体に何度となく巡る。血液に運ばれる酸素のように。
手を繋いだ、皮膚の触れ合う所から何度も何度も反芻された。
そんな言葉をあたしにかけるアメの優しさ。あたしを許したレイチェルの優しさ。あたしを当然のように受け入れるスミトモの優しさ。あたしを許すドクターの優しさ。2008-03-27 01:11:00 -
279:
緋恋◆lZf.ArgVp2
みんな当たり前のようにひとを愛する。側にいる人を当然のように認めている。
どうしてその優しさは全てに還元されないのか。
愛するという事を知った時、世界は美しい。
時に何倍も悲しい。2008-03-27 01:16:00 -
280:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「どうして泣くの?」
「…………さあ?」
あたしはアメの手の温もりしか頼るものがないような気持ちで、アメの手を握り返す。
強く握って強く握り返してもらえれば大丈夫だという気がした。
アメ、貴方が何者でも。あたしが何者でも。2008-03-27 01:21:00 -
281:
緋恋◆lZf.ArgVp2
そんなふうな頼りない感情の中に答えがあるような気がして
2008-03-27 01:22:00 -
282:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「もういいよ、普段着で」
久しぶりに穿くスカートも綺麗なカッティングのドレスも、足がすうすうと心ともなく、場違いな気がしてはやくここから退散したい。
「だめ。そりゃ正装してバッチリしないとだめでしょ。ご招待頂いてるんだから」
アメはあたしの意見なんかお構いなしに何枚ももってこられた服の中から更に厳選を重ね、次はこっちと動作だけで促してくる。
そんなアメはとても楽しそうで、そんな姿をみると咽まででてきかけた言葉はひっこんでしまって、あたしは大人しく何枚目かもうわからなくなっているドレスに袖を通した。2008-03-27 01:52:00 -
283:
緋恋◆lZf.ArgVp2
部屋に大量の服を散らかして、なんでも着こなしてしまうアメのセンスはなかなかのもので。
鏡に写るあたしの姿は一人前とはいかなくても八割がたは立派な女に見えた。
艶々と光沢のある肌触りのいい生地はシンプルなデザインを見事に素敵に飾っている。何枚も鏡に写した中では地味といえば地味だけど一番しっくりくるような気がした。
「…………かぶりつきたい」
「……馬鹿?」2008-03-27 02:00:00 -
284:
緋恋◆lZf.ArgVp2
アメの馬鹿げた発言で選ばれるドレスが決定した。
「黒の似合う女はいいよね。無難な色と見せかけて着こなせる奴はそうそういない色だしね。」
髪のほつれ一つない店員の女がんかアメの横でドレスとあたしを褒めちぎっていたけど、アメは全く耳を傾けずあたしを目を細めて見つめた。
それは恋人を見る男というより、親バカとかそういう路線に近い気がして笑ってしまう。
「これ頂戴。」2008-03-27 02:08:00 -
285:
緋恋◆lZf.ArgVp2
店員はしてやったりという顔をして満面の笑顔を見せた。
とりあえず、やっとこの着せ替えショーは閉幕を迎える。ほっとしてドレスを脱ごうと試着室のカーテンに手をかけた。
「まだ靴とバックがあるから!!」
意識が遠のく気がした………………。2008-03-27 02:13:00 -
286:
緋恋◆lZf.ArgVp2
結局、ドレスと靴と鞄をお買い上げして更にアクセサリーも……と言い出すアメを必死で制した。
満面の笑顔の店員に見送られながら店を後にした。
「なんか……いっぱい買って貰っちゃって…………いいの?ごめん」
嬉しくないわけではなかった。あたしもやっぱり女だなと実感してしまう節もあった。けれど喜びより分布不相応に思える買い物は申し訳ないような気持ちの方が大きい。
「アンジュ、可愛かったなあ」2008-03-27 02:20:00 -
287:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「初めてアンジュにプレゼントらしいプレゼントできたから嬉しいけど俺。」
「別にプレゼントとか……………」2008-03-27 02:24:00 -
288:
緋恋◆lZf.ArgVp2
アメは唇を片方あげるあの笑い方……をするかと思った瞬間、泣きそうな目をして笑った。
「アンジュに何かあげたいからいいの!…………………………………………………………………………受け取ってもらえる?」
「本当はそんなふうに笑うんだね」
「??いるの?いらないの?」
少し怒ったようにぶっきらぼうに言い放つアメがなんだかおかしくて可愛かった。2008-03-27 02:30:00 -
289:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「……もらえるものはもらっとく。………………ありがとう。嬉しい。」
どんな素敵なものよりアメの本当の笑顔が貰えた事が嬉しかった。
こうもり傘から雨粒がポタポタ落ちる。あたしが濡れないように端によるアメの肩が少し濡れている。
その事が嬉しかった。
もがいて消えたがったあたし達が笑ってたいられる事がなによりも嬉しい。2008-03-27 02:36:00 -
290:
緋恋◆lZf.ArgVp2
雨でかすんで見えるアパートの前でもかすまない赤い雨傘。
一人の少女が立っているのが見える。
「クリスマスのドレス一緒に選んで!!!!!!!!!!!!!」
軽くめまいがした。2008-03-27 02:40:00 -
292:
緋恋◆lZf.ArgVp2
>>300
「コレとコレどっちが可愛いと思う?」
天秤にかけられた二枚のドレスはレースやフリフリがどちらもふんだんについていて、どう違うのかイマイチわからない。
「どっちも似合うと思うよ」
そう思ったのは本当。年齢の割にはずいぶん大人びてはいるものの、その体は少女らしい硬さを残している。白いふんわりとしたオーガンジーのドレスを胸に当てるレイチェルはチロリと横目でこっちを見た後、また視線を鏡に戻した。2008-04-02 00:55:00 -
293:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「どっちが似合うか聞いてるのにぃ。アンはアメにドレス選んでもらったんでしょ。…いいなあ」
レイチェルは自分でドレスを一枚選ぶと試着室のカーテンを引く。カーテンの向こう側から「スミトモは白が好きだからね」と、相変わらずスミトモの話が途切れることはない。
「どうかな?」
ベアトップの白いドレスは胸の下からフリフリとドレープのついたスカートが広がっていて、レイチェルの白い肌によくはえた。
「お嫁さんみたいだね」2008-04-02 01:08:00 -
294:
緋恋◆lZf.ArgVp2
レイチェルは白い肌を胸のあたりまで真っ赤にする。
「これでスミトモがカッコ良くスーツ着て来てくれたら……結婚式みたいにみえるかな?」
「若い夫婦みたいに見えるよ、きっと」
レイチェルはカーテンを勢いよく閉めてしまった。小さな声でありがとうと聞こえた。パサリとドレスが床に落ちる衣擦れの音と同じくらい小さな声で。2008-04-02 01:16:00 -
295:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「いつかスミトモと本当に結婚できたらいいな……もっと大人っぽいドレス着て。……今はまだセクシー系は着こなせないからさ。空が真っ青になるくらい晴れるところで…雨の式なんて嫌だし。」
着替えを済ませたレイチェルが再びカーテンを勢いよく開けた。
「……………。本当はスミトモがそばにいてくれたら…それだけでいいんだ。」
そう呟くレイチェルの横顔は年に見合わない程大人びている。
孤独を知っている者の表情だった。2008-04-02 01:28:00 -
296:
名無しさん
登場人物全員だいすき??特にレイチェルかわいい(><)本間すきー??待ってます??読んでたら私も幸せになります(´∀`)ありがとう
2008-04-13 22:05:00 -
297:
名無しさん
今はじめて全部読ませてもらいました。
主さんの言葉一つ一つに心を動かされました。
読んでいるうちに、勝手に物語の中に吸い込まれてしまう様な感覚になって鳥肌がたって、涙が出ました。
こんなにも入り込んで読めたの、主さんの小説ガはじめてです。ありがとう。
応援していますので、主さんのペースで頑張ってください。2008-04-14 19:53:00 -
299:
主◆lZf.ArgVp2
>>305
「そばにいてくれたらそれだけでいい」
望むのはそれだけの些細な願い。だけどそれは簡単な事ではなくて。
レイチェルもあたしもそんな事はわかっている。
難しいことだと知っているからこその願い。2008-04-23 21:08:00 -
300:
主◆lZf.ArgVp2
一度手を取ってしまえば、その手を離すことが恐ろしくて仕方がない。ほんの少し前まで何も持っていなかった筈なのにね。
レイチェルと別れた後、珍しく雨は止んでいて血塗られた様な月があたしを見つけた。
飲み込んでくちゃくちゃにしようとしているかのようなそれを睨みかえす。
レイチェル、あたしも一緒に思うよ。あなたの願いが叶いますように。
アメが、レイチェルが、スミトモが、ドクターが、幸せでありますように。2008-04-23 21:21:00