小説掲示板『あの夏を もう一度』のスレッド詳細|夜遊びweb関西版

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『あの夏を もう一度』

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  • 1:

    ◆/fmXna4sZY

    耳をすませば 今も聞こえてくる
    あの日の 波の音
    指の隙間から 零れ落ちる砂のように…

    いつか、消えてしまうの?

    2006-05-22 04:35:00
  • 2:

    ◆/fmXna4sZY

    「ごめん、他に好きな人が出来た…」

    三年間付き合っていた彼氏に、あっさりとそう言われた一ヵ月前。あたしは、フラれてしまった。
    『好きな人… 誰?』
    「泉の…知らない人。」 『どんな人?』

    2006-05-22 04:50:00
  • 3:

    ◆/fmXna4sZY

    「弱くて…なんか…さ、守ってやりたくなるんだ」   
    遠回しに、自分とは違う、そう言われている気がした。
    『…そっか、分かった。圭吾が決めたんなら仕方ないよ。ちゃんと大事にしてあげなよ。』
    「泉…… ほんとごめん」『今度、彼女紹介してね。圭吾のある事ない事吹き込んどくから。』
    「えっ… ちょ、それだけは勘弁してっ!」

    2006-05-22 05:12:00
  • 4:

    ◆/fmXna4sZY

    『あはは、冗談に決まってるじゃん。まぁ、紹介くらいはしてよね。付き合いが長い《友達》として。』 「なんだ…冗談かよ。ってか、まだ付き合ってないけどさ。もし、うまくいったら一番に紹介するよ」  『うん、了解。じゃあ、あたしはそろそろ行くから。あ、今までありがとね!』

    「……ぇ…な」
    『え?何?』
    「やっぱ、泉は強ぇな…。俺こそ、ありがとな。お前なら幸せになれるよ。」

    2006-05-22 05:24:00
  • 5:

    ◆/fmXna4sZY

    『…ははっ、ありがと。圭吾も今度こそ幸せになりなよ。じゃあ、また連絡して。とりあえず元気でね。』   
    バタン――― 。
    車のドアを勢い良く閉めた。三年間の終止符は、こんなにも呆気なく打たれる。ププッー クラクションを鳴らして、軽快に走りだした車。その助手席は、昨日まであたしの指定席だったはずなのに…

    あたしは、どうして笑えてるんだろう?

    2006-05-22 05:38:00
  • 6:

    ◆/fmXna4sZY

    圭吾とは、友人を通じて学生の頃に知り合い、お互いに一目惚れをした。共通の音楽の趣味もあり、「なぁ…一緒にイベントに行かない?」彼のその一言で、あたし達は始まった――  三年間の月日は、思い返せばあっという間で、彼の前で一度も涙を見せなかったあたしは《強い女》
    そうレッテルを貼られ、こうして幕を閉ざれる‥     
    『…なぁーにが、幸せになれるよ。あたしの三年間を返せっつーの。はぁ…』

    もうすぐまた【夏】がやってくる。一枚一枚服が薄くなる度に、ムキだしになりそうで嫌なこの季節――…

    2006-05-22 12:13:00
  • 7:

    ◆/fmXna4sZY

    今日で、あれから一ヵ月が経つ。意外と早くに立ち直れたあたしは、やっぱり 《強い女》…なのかな。    
    カンカンカン―― マンションの階段をゆっくりと登る。 ‥と、駐車場に目についた一台の車。『…また、かぁ……』状況を察して、ノブを回す前に、廊下を引き戻しかけた。
    カチャ――「…いづみ?どうしたのよ?何処行くの?」『あ、ただいま…』
    開いたドアからは、やっぱりタバコの匂い。うちは、禁煙なのに――…   
    「入りなさいよ。あんたの好きな【ra・mand】のケーキ持ってきてくださってるのよぉ。」

    2006-05-22 12:26:00
  • 8:

    ◆/fmXna4sZY

    『……いいよ』
    「へんな子ね。なに遠慮してるの?あんたの家なのに。」
    『…あたしの家じゃないよ。ママと、お金出してくれてるあの人の家でしょ。』「…ちょ、いづみ!」     
    カンカンカン――― ママとパパが離婚してから、約3年が経つ。仲が良くて有名だったうちの家族は、パパが背負った借金が原因で‥ ぐちゃぐちゃになった。 
    3年前、全てが信じれなくなっていた頃、圭吾に出会ってあたしは救われたんだ

    2006-05-22 12:40:00
  • 9:

    ◆/fmXna4sZY

    パパと離婚して、半年前、年下の彼氏が出来たママは、当時よりだいぶ若返った。パパと離婚した当時は、本当に、一気に老け込んでしまった気がしてたから‥

    ママの新しい恋人は、家に来る度にいつも、あたしのお気に入りの駅前のケーキ屋さんでケーキを買ってきてくれる。 

    でも、そんなもん 欲しくない。

    2006-05-22 12:49:00
  • 10:

    ◆/fmXna4sZY

    から… お金が欲しい。 お金があったら、家を出れるのに。あたしが、あの場所にいなくてすむのに。

    風俗でも、いこうかな…  
     
    「…あっ、泉ちゃぁ〜ん。こっちこっち!何してんの?こっちおいでよ〜!」 『あれ?伊織…』

    2006-05-22 12:57:00
  • 11:

    ◆/fmXna4sZY

    「あはっ、久々じゃん〜。こんなとこでなぁにしてんの!?」『いや…それは、こっちのセリフ。あんたこっち戻ってきてたの?』 「ん…一週間前にねっ。」  
    【伊織】は、学生の頃、同じサークルだった男友達。天真爛漫な性格で、男が苦手だったあたしでも、自然と仲良くなれた。だけど、大学を卒業する間際で、急に引っ越していった。居場所も分からない。連絡も取れないまま、約二年。
    こんなトコでまた再会するなんて…      

    『あんた…一体何処にいたの?急にいなくなってみんなすっごく心配してたよ』

    2006-05-22 13:08:00
  • 12:

    ◆/fmXna4sZY

    本当に、あたしも圭吾も、心配してたのに…   
    「あはっ、ごめんなぁ。ちょっと家の事情で一人フラリ旅ぃ〜みたぃな。」
    『は…?フラリ旅?』  「っつーのは、冗談でぇ。…笑 女のケツ追っ掛けてた。で、フラれてシッポまいて帰ってきたってわけ。俺ってカッコ悪りぃ〜。」  
    ・・・なんだそりゃ。女?そんな話、全く知らなかったし…。
    「そういや泉、お前、圭吾とはうまくいってんのっ?アイツ元気〜?」

    2006-05-22 13:24:00
  • 13:

    ◆/fmXna4sZY

    『…圭吾とは…別れたよ』「へっ? ……マジで?言ってんの?いつ?」
    『一ヵ月前。他に好きな子が出来たんだってさ。』 「マジか…よ、アイツ…」『ははっ、もう立ち直ってるから大丈夫!今も、普通に友達だしね。番号変わってないから圭吾に連絡してあげてよ。伊織の事、だいぶ心配してたから』
    「……おう。あ、泉の番号も教えてよ。俺、携帯変わってるから。」
    『アンタ…もうブッチとかしないでよね?それなら、いいよ。教えても。』
    「ははっ、大丈夫ぅ〜。もう、ずっとこっちにいるつもりだから。泉ちゃんっ、これからもよろしくね♪」

    2006-05-22 13:38:00
  • 14:

    ◆/fmXna4sZY

    『調子いいやつっ……』      

    圭吾、良かったね?伊織、戻って来てたよ。アンタが自分を責めてきた日々が、やっと報われるね――…  

    2006-05-22 13:44:00
  • 15:

    ◆/fmXna4sZY

    伊織と別れて、あたしは一人、海に来ていた。まだ、季節は5月… 夏が近づいてるといっても、海に人は少ない。
    ザザン… だけど、この時期の海を見るのが一番落ち着く。もうすぐやってくる季節を目前に、それを待つように波は優しく、行ったり来たりする。

    だけど今日は、潮の香りになんだか切なくなった…

    2006-05-22 13:54:00
  • 16:

    ◆/fmXna4sZY

    あたしの目に映る、一人の人影。太陽の光が反射して…… 良く、見えない。   
    「あれ…?何?サーフィン?ヤバイ!超カッコイイ」「ほんとだぁ… あ、立った!すごいっ!ひゃ〜ぁ…寒くないのかなぁ。」    

    キラキラ眩しい光の中、海の中で風をきる君に、目を奪われてしまった―― 

    2006-05-22 14:17:00
  • 17:

    ◆/fmXna4sZY

    「あ……れ?ねぇねぇ横にいた女の人がいないよぉ」「あ、海……!!」

    体が、勝手に動いてた。気付けば、走って堤防を駆け降りあたしは靴を脱ぎ捨て海に入ってた。バシャッ―…   
    どんどん遠くに向かって、歩いていく。服が重たくなって、自然とペースが落ちる。だけど、何故だろう…足が止まらない――

    2006-05-22 14:30:00
  • 18:

    ◆/fmXna4sZY

    バシャバシャッ―… もう少し…もう少しで……バシャ… 
    「ひゃ・・・あの人、何やってんの?ぶつかるんじゃ…」「あっ…ヤバイ!!」   

    ザパーン――――ッ ………

    2006-05-22 14:39:00
  • 19:

    ◆/fmXna4sZY

    「…ッップハァ…!死にてーのか…ッバカヤローっ!!」

    え―――… 思わず、目を掠めてしまった。海水で濡れた髪の毛を掻き上げながら叫ぶ、君の顔を見た。 『あ…ごめん…なさい』 「………」

    足がすくんで、動けなかった。自分のした行動に、急に恐怖が湧いてくる…

    2006-05-22 14:52:00
  • 20:

    ◆/fmXna4sZY

    足がガクガクする… 震えが止まらない……    
    「…ケガは?」 
    『え…』
    「ケガはねぇの?」
    『あ、大丈夫… っ…』 「何?ケガしてんの?」 裸足で歩いてきたから、石で足を切ったみたい‥‥

    2006-05-22 14:58:00
  • 21:

    ◆/fmXna4sZY

    「……ほら、掴まれ。」 『え…あ、いーですっ。本当に』「…ったく。ほら」『えっ……!!』       
    信じられない・・・ 『ちょっ本当に、離して…!!大丈夫だから!』

    「また、死にてーの?」

    2006-05-22 15:11:00
  • 22:

    ◆/fmXna4sZY

    『……』
    足が痛くて… 恐怖で、動けない… 
    黙り込むあたしを背負ってそのまま歩き始めた。あたし、何してんだろ…   「ボード引っ張るから、落ちないよーにちゃんと掴まってて」『うん…』       
     
    初めて触れた体からは、海の香りがしたんだ――…

    2006-05-22 15:20:00
  • 23:

    ◆/fmXna4sZY

    「で、なんであんなトコにいたの?…俺がいるの見えなかった?」
    『見えてた…』
    浜辺について、サーフボードに座り込む彼に、濡れた服を絞りながら答える。 「じゃ…なんで?」   溜め息混じりに、また質問を繰り返される。
    『体が勝手に…動いてた』    
    だって、本当の事だから。

    2006-05-22 15:26:00
  • 24:

    ◆/fmXna4sZY

    「…名前は?」『え…?』「アンタの名前。俺は、 瀬名 柊二。」
    『あ… あたしは… 泉』 「泉は、海が好きなん?」『好き…海は、落ち着くから。いつも全てを、忘れさせてくれる』
    気付けば、太陽は夕日に変わり、夕日は、地平線の向こうで広い海に沈みかけていた。深い紅が、深い青に溶け込んでいく…

    なんて情緒溢れるんだろう

    2006-05-22 15:40:00
  • 25:

    ◆/fmXna4sZY

    「あんま、危ねー事すんなよ。命は粗末にするもんじゃないからな。」
    『…そうだね。』
    「あ、夕日…沈んだ。日暮れると冷えてくるから、気付けて帰れよ。こっから家近いの?」
    『ん…近いよ。じゃあ、今日は本当にごめんなさい。じゃあ、また』
    あたしは立ち上がり、堤防に向かって歩き始めた。

    2006-05-22 15:49:00
  • 26:

    ◆/fmXna4sZY

    「いづみ!夏が終わるまでは俺、毎日ここにいんだ。忘れたい事あんなら、顔出しに来いよ」
    後ろを振り返ると、柊二が笑顔でそう言った。
    『ありがと…また来るね』   

    柊二、聞こえる?この日の【言葉】の重みが、あたし今になって分かるんだ…

    2006-05-22 15:58:00
  • 27:

    名無しさん

    2006-05-22 15:59:00
  • 28:

    名無しさん

    2006-05-22 16:00:00
  • 29:

    名無しさん

    2006-05-22 21:29:00
  • 30:

    美雨

    おもしろくなりそぉ??続き期待してます?

    2006-05-22 22:56:00
  • 31:

    名無しさん

    あげ?あげ

    2006-05-23 06:45:00
  • 32:

    ◆/fmXna4sZY

    美雨サン、ありがとうございます★良ければ完結までお付き合い下さい(*^_^*)
    32サン、ありがとうございます★

    2006-05-23 15:00:00
  • 33:

    ◆/fmXna4sZY

    なんだ、まだいたんだ… 「あれ、いづみ帰ってきてたの?おかえりぃー」  『ただいま…』
    嫌なニオイ。鼻が、ムズムズする。キライ―――…     
    「泉ちゃん、こんばんは。おかえりなさい」
    『あ…こんばんは…』  テレビの音が鳴り響くリビングの中から、ひょこっと顔を出してきたこの人― この人が、ママの年下の彼氏。長身で細身なスタイルに、屈託のない笑顔は、33歳という実年齢よりも、数倍若く見える。

    2006-05-23 15:09:00
  • 34:

    ◆/fmXna4sZY

    「お邪魔してます。良かったらケーキ買ってきてあるから、食べないかな?」 愛想のないあたしにニッコリと笑いかけるこの人は、悪い人ではないと思う。 だけど… 
    『今お腹すいてないから…あとで頂きます。』   「ちょ…いづみ」
    タンタンタンタン― カチャッバタン――

    だけど、 パパがあまりに可哀相で――…

    2006-05-23 15:18:00
  • 35:

    ◆/fmXna4sZY

    パパとママの離婚した原因は、パパが作った借金。 いや、正確には… パパが覆い被ってしまった借金。

    パパは、建設会社の社長をしてた。そんなパパには、若い頃から付き合いがある大親友がいた。ある日、その親友に告げられる。  「なぁ俺、リストラにあっちまった…このご時世にだよ?俺…これからどうしたらいいかっ……うっ…」 勤めていた会社からリストラにあったという彼に、パパは落ち着いて言った。 「なら、うちの会社で働けばいい。ちょうど人が足りてなかったとこなんだよ」笑顔に話すパパに、彼は、泣きながら喜び感謝した。  
    その後、真面目に働く彼の姿を見て…パパは言う。 「竹下、お前には20年来の信頼がある。私一人じゃ管理しきれない…会社の資産管理をお前に任せたい。」

    2006-05-23 15:42:00
  • 36:

    ◆/fmXna4sZY

    「資産管理…?俺が…?でも、あそこは他の従業員だって立ち入り禁止だろ?」「金庫か、大丈夫だよ。お前には信用があるからな」「……そうか、分かった。じゃあ、明日からは責任持って管理するよ。」


    その日、パパは、竹下さんに金庫の鍵を預けた。まさか、信頼の厚い彼に裏切られるなんて思ってもみなかった事だろう――――…

    2006-05-26 06:07:00
  • 37:

    ◆/fmXna4sZY

    パパとママの離婚が決まったのは、その日から、半年も経たないうちの事。    
    竹下さんは、もともと自分の背負っていた多額の借金の保証人をパパに頼んだ。そしてその一ヵ月後…  会社の金庫から、お金を持ち出したまま音信不通となってしまう――――  


    【信用】って、本当に当てにならない。所詮は、みんな他人だもんね。ママも、ママだよ。ショックとストレスで入院までしたパパを見捨てて、アッサリ離婚するなんて……

    2006-05-26 06:21:00
  • 38:

    ◆/fmXna4sZY

    圭吾だって伊織だって、人はみーんな簡単に他人を裏切れるんだ。――そんなの良く分かってる。


    だから、あたしは今こうしてこの場所に… 立っていられるのかも知れない。 

    2006-05-26 06:32:00
  • 39:

    ◆/fmXna4sZY

    ♪♪着信 伊織♪♪

    「あれ?伊織…?」
    伊織と再会してから、三日後。寝呆けつつディスプレイを覗くと、早速の着信に思わず目が覚めた。
    「もしもし…どした?」 《あ、泉ちん?何してんのさっ?遊ぼーぜぃっ!!》

    2006-05-26 06:41:00
  • 40:

    ◆/fmXna4sZY

    朝から疲れるそのテンションに、あたしは開きかけてた目を再び閉じた…   「…今何時?は?まだ六時じゃん。相変わらずあんたは人の迷惑考えないね…」《そんな堅い事言わないでさぁ〜!二時間後に迎え行くから用意しとけよんっ★じゃっまた後でなぁ!》 「…え?ちょっ…伊織!」

    プツップープープープー・・・   
    「はぁぁぁ…」
    伊織の性格は、昔からこんな感じ。末っ子のせいか、悪く言えば子供っぽくて自己中心的…。だけど、人なつっこっくてこう見えて意外と頼りになったりする。だから、憎めないんだ―。

    2006-05-26 06:58:00
  • 41:

    ◆/fmXna4sZY

    《いづみち〜ん!家の前に着いたよんっ!》
    『はいは〜い!…今出るからちょっと待っててぇ。』流行りの編みあげサンダルを履きながら、慌てて電話を切ると、勢い良く玄関のドアを閉めた。

    「ぐっもーにん!相変わらずやる気ねーじゃん!笑」マンションの下に止めてある車に近づくと、伊織がひょこっと顔を出す。
    『…なんでやる気出す必要があんの?眠いってば。』

    2006-05-26 07:10:00
  • 42:

    ◆/fmXna4sZY

    「いやいや…その格好でコンビニの前に座ってたら、完全にヤンキぃーだよ君。泉らしいけど。」
    『あ…コンビニ行きたい。とりあえずお腹すいたし』「……行くのかよ。笑」

    朝早くから急に呼び出されて、気合いなんて入れれるワケがない。伊織と遊ぶ時はたいがいこんな感じ。 スウェットの上下に、足元は常にスニーカー。まぁ、着替えるのが面倒臭かったからだけなんだけど…

    2006-05-26 07:20:00
  • 43:

    名無しさん

    2006-05-26 07:22:00
  • 44:

    ◆/fmXna4sZY

    「んじゃあ、いっちょ行きますか!泉、ちゃんと掴まっとけよ〜!」
    『飛ばしたら、即効帰るから。…寝起きにあんたの運転はキツイって』

    少しくせのある茶色い髪を手でくしゃくしゃさせながら、悪戯っぽく笑う伊織。チャームポイントの八重歯が、その整った顔立ちに、ギャップを作っている。     
    伊織と圭吾の間にあった出来事を、あたしが知るのはもう少し先の話―――…

    2006-05-26 08:54:00
  • 45:

    名無しさん

    ?

    2006-05-26 14:46:00
  • 46:

    ◆/fmXna4sZY

    『…で、どこに向かってるの?』
    コンビニに立ち寄って買った菓子パンを頬張りながら、ハンドル片手にタバコを吸う伊織に聞く。
    「ん、…懐かしいとこ。」『懐かしい?なに?』  「ま、着いてからのお楽しみじゃん。食べながらいい子にしてなさい。笑」  『……あっそ。』        
    懐かしい場所?
    あたし達の懐かしい場所って言ったらやっぱり――…

    2006-05-28 16:25:00
  • 47:

    ◆/fmXna4sZY

    「はいとうちゃーく!姫、足元にお気を付けてっ。」『…ん?あ、ごめん。ウトウトして……え・・?』

    …予想を反する目の前の光景に、ただ驚いた―――    

    『ココ…って圭吾の家?』なんで………

    2006-05-28 16:37:00
  • 48:

    ◆/fmXna4sZY

    「懐かしいだろ?昔はみんなで…しょっちゅう集まったよな。」
    伊織は、遠い記憶を思い出すように――‥反射する太陽の光を、眩しそうに目を細めた。
    『…圭吾に会ったの?』 「会ってないよ。」   『そう…』     

    【伊織と圭吾】。誰よりも仲が良かった二人の間に、修復のきかない━亀裂━が入ってしまったあの日。 あたしはただ悲しくて、 一人で海を眺めていたんだ。

    2006-05-28 17:35:00
  • 49:

    ◆/fmXna4sZY

    …懐かしい場所っていうから、てっきり学校かその近くの遊び場だと思ってたのに。  
    伊織と圭吾が顔合わすのも二年ぶり。昔は、良く三人でも遊んでたのにな…  なんだか今は、自分のいる立場にすごく緊張する。 「んじゃ、呼びますか。」『…え?あぁ、うん…。 ってか、大丈夫なの?』 「何が?」『圭吾の事…』「どしたの?泉が心配しなくてもいいよ。」
    伊織は、あたしの頭を軽くポンポンと叩いた。

    ピンポーン――

    2006-05-28 17:55:00
  • 50:

    ◆/fmXna4sZY

    ガチャ――
    「はい…え……いお…り」この時の圭吾の表情は、きっと忘れられない。伊織を見た時の、圭吾の表情は―  
    「圭吾、久しぶり」
    「…な…んで?ココ……お前今まで何処…に?」 
    「んーちょっとね。まぁ、色々あって。」

    2006-05-29 03:30:00
  • 51:

    ◆/fmXna4sZY

    「………あ…れ?泉…?」『あ…いや、さっき伊織に呼ばれてさ。……元気?一ヵ月ぶりだね。』

    一ヵ月ぶりに見た圭吾は、長かった髪を切って、前より垢抜けた気がした。 

    「ま、なんだし中で話そうよ。圭吾、今いける?」 「お…おう……」

    2006-05-29 03:35:00
  • 52:

    ◆/fmXna4sZY

    都内で一人暮らしをする圭吾の家――。1LDKのマンション。
    一ヵ月前までは、あたしも同じ【鍵】を持っていた。『…お邪魔します。』

    去年の誕生日に貰った、赤と青のリボンのついた二つお揃いの鍵。そう、あたしと圭吾は大学を卒業してからココで同棲していた。   
    今はもう、“ただいま” じゃないけれど――…

    2006-05-29 03:46:00
  • 53:

    ◆/fmXna4sZY

    彼女と自分の違いを…痛感させられた気がしたんだ。


    「でさ、圭吾話出来る?」「お…おう」
    あたし達三人はとりあえずテーブルを囲んで腰を下ろし、あたしは一人、この緊迫したムードに落ち着きを取り戻せずにいた。

    2006-05-29 04:12:00
  • 54:

    ◆/fmXna4sZY

    「……実奈の事だけど」 「伊織っ…ごめんっ!!」   
    え――――??あたしは、目を疑った‥ 
    伊織の言葉を遮るように放った圭吾の言葉。それと同時に、彼は床に両手と頭を付け土下座していた。
    『ちょ…圭……吾?』  あたしは、何が何だか分からなくて… 
    「伊織っ…ほんとに、悪かった。俺が、俺が、あんな事しなきゃ……」

    2006-05-30 19:22:00
  • 55:

    ◆/fmXna4sZY

    『伊織…何?あんた達二年前に…何があったの?』 あたしの言葉に、黙って圭吾の姿を見つめていた伊織が、ゆっくりと口を開いた。

    「圭吾、顔あげろよ…」 「……伊…織?」
    「土下座なんてすんなよ。謝るのは…俺の方だよ。」    

    2006-05-30 19:31:00
  • 56:

    ◆/fmXna4sZY

    伊織が語りだした、二年前の真実。あたしが何度圭吾に聞いても、彼の口からは告げられなかった…過去。
        
    伊織には、当時、彼女がいた。“実奈ちゃん”といって、あたし達より一つ下の同じ大学の女の子だった。伊織は、こんな性格のくせに意外と照れ屋なトコロがあって… あたし達にすらなかなか彼女である“実奈ちゃん”を紹介してくれなかった。
    初めて彼女を見たのは、学園祭の日――。伊織の横で楽しそうに笑う女の子を見て、一目で実奈ちゃんだと分かった。それから、学校でもちょくちょく彼女を見かけたけど、人一倍…人見知りが激しいあたしは、一回も声をかけれなかった。

    2006-05-30 19:44:00
  • 57:

    ◆/fmXna4sZY

    特別目立つ感じの子では無かったけれど、伊織と一緒にいる時の彼女は、いつもニコニコ笑っていて…女のあたしから見ても、とても可愛いと思ったんだ。


    ある日、圭吾から一本の電話が鳴った。内容は、伊織の彼女と三人で遊ぶから、あたしも来て欲しいという話だった。だけど、あいにく今からバイトに行かないといけなかったあたしは、その誘いを断った――

    2006-05-30 19:55:00
  • 58:

    ◆/fmXna4sZY

    そこから、全ては変わっていってしまったんだ…

    その日、帰ってきた圭吾に電話で伊織の彼女の事を聞いても、圭吾は「ん、まぁ普通だった」としか、言わなかった。あたしも、あえてそれ以上は触れなかった。
    それから、数か月が過ぎた――。ある日の、放課後だった。「泉…!大変!!圭吾と伊織が!!」共通の友人が慌ててあたしの元に、駆け寄ってくる。『えっ…何?どしたの?』「いいから!!早く来て…!!」 ただならぬ様子の友人に無理矢理腕を引っ張られて、あたしはそのまま‥何処かへ連れていかれた。

    2006-05-31 00:34:00
  • 59:

    ◆/fmXna4sZY

    連れていかれた場所は、学校の裏庭。何やら、騒がしい声が聞こえてくる。  え―――…? 
    『ちょ…二人共、何やってんの!?やめなよ!!』 駆け寄るあたしの目に映った光景は、男二人の取っ組み合い。圭吾と伊織…  「…っ前に、何が分かんだよ!!」バシッ――「……前の為に‥言ってんだろ!!!」ガンッ―――
    『やめてってばぁ…!!圭吾!!伊織っ…!!』    

    今考えれば、あの時あたしがバイトを休んで行っていれば。ううん、圭吾に話を聞いていれば… あの日の二人の気持ちを、少しは理解出来たのかな―――…?.

    2006-05-31 00:49:00
  • 60:

    ◆/fmXna4sZY

    そのまま、喧嘩の原因が何か分からないまま…その日は三人別々に帰った。

    伊織が姿を消したのは、その日から三日後の事だった。卒業式までは、すでに一ヵ月をきっていた。
    そのまま音信不通になり居場所も、何をしているのかも、分からなくなった。…風の噂で、彼女とは別れたんだと聞いた。それだけだった。     
    それから圭吾は、毎日自分を責めた。伊織がいなくなったのは、自分のせいだと。あの日の喧嘩が原因――…? あたしには、分からなかったけれど。 .

    2006-05-31 01:02:00
  • 61:

    ◆/fmXna4sZY

    突然いなくなった伊織。 自分を責めてきた、圭吾。理由を知らずに、圭吾の傍に居続けたあたし―。  二年前の真実は…ドコに?    

    「伊…織、お前は悪くねーだろ?だって、お前は…本当はいづ……」「圭吾!」「…え?」「いいから…」「もう、いいから。だから今日、……ココに泉を呼んだんだよ。」         
    『え――?何…?』 
    突然、二人と同時に目が合う。あたし…?

    2006-05-31 01:19:00
  • 62:

    ◆/fmXna4sZY

    「泉……今から、俺が話す事聞いて欲しい。」   伊織が、真剣な表情を浮かべる。緊迫した空気が、その場を張り詰める。
    『…分かった。何?』 

    「泉、“実奈”は…分かるよな?大学ん時に俺が付き合ってた…女。」
    『ん…分かるよ。何度か、一緒にいるトコ見かけたから。』

    2006-05-31 03:32:00
  • 63:

    ◆/fmXna4sZY

    「アイツは…さ、俺が全てを嫌になってた時期に、俺を…救ってくれたんだ。 実奈と……出会ったのは、クラブのイベントだった」   

    「ねぇねぇ、こんなトコで何してんのぉー?」
    「…っえ?私…ですか?」酒にもいい感じに酔ってた俺は、仲間からはぐれて、一人騒がしいフロアをうろついていた。そして、たまたま隅の階段に座り込んでいた一人の女の子に、声をかけた。    
    「そそっ。君だよ〜君。」「あっ……えっと、私…こういう場所に来るの初めてで…?あの、えっと…」

    2006-05-31 03:46:00
  • 64:

    ◆/fmXna4sZY

    真面目そうな女…       
    実奈への第一印象は、こんな感じだった。     それから、少し階段で話し込んでいると、同じ大学だという事が判明。ノリで携帯番号を交換して、俺はその場を離れた。

    【さっきは、話してくれてありがとう…。伊織くんって、なんだかお兄ちゃんみたいだね。 FROM.実奈】  
    その場の社交辞令かと思いきや、意外にも…メールは実奈の方から先にきた。

    2006-05-31 03:53:00
  • 65:

    ◆/fmXna4sZY

    【…お兄ちゃんかぁ。俺は今妹より、慰めてくれる女が欲しいけど(>_

    2006-05-31 04:10:00
  • 66:

    ◆/fmXna4sZY

    「会うの二回目だけど…。ほんと……に、いいの?」「……う…ん。」
    「分かった……」      

    俺と実奈は、出会って二日目で、そういう関係になった――。      

    2006-05-31 04:27:00
  • 67:

    ◆/fmXna4sZY

    「嫌な事…少しは、忘れられそう?」
    「……え!?あ、うん…実奈のおかげでね。」
    「実奈…伊織くんを、支えていきたい。誰かの代わりでも構わない…だから…」   
    昨日会ったばかりの俺なんかの為にそこまでしてくれて… 目の前でそんな事言われたら、断る男っているのかなぁ?
    ちが…う 本当はさ、彼女の今にも零れ落ちそうな涙を見てしまったから――

    2006-05-31 04:36:00
  • 68:

    ◆/fmXna4sZY

    「実奈ありがとう…こんな俺で良かったらさ、これからも傍にいてやってよ?」「……ほん…と?」
    「ほんとだよ…おいで。」  

    彼女を抱き締める。力一杯包み込む。この腕の中に、誰かの影を 重ねながら… 

    2006-05-31 04:42:00
  • 69:

    ◆/fmXna4sZY

    「…い…おり…くっ…あっ…」「実奈……ハァ…っ」 「あっ…ダメッ……!!」  

    彼女を抱いた夜、俺の心には罪悪感と、自分の気持ちを偽った虚しさだけが…  
    ただ、残っていた――。

    2006-05-31 04:48:00
  • 70:

    名無しさん

    2006-05-31 04:50:00
  • 71:

    名無しさん

    2006-05-31 09:37:00
  • 72:

    名無しさん

    ???

    2006-06-01 02:32:00
  • 73:

    ◆/fmXna4sZY

    「おっす!伊織!あれ…お前何?ちょっと痩せた?」「……圭吾。」 

    学校に行く途中、背後から圭吾に声をかけられた。 体がダルイ―――…。  「お前…目の下の隈すげぇよ?どした?寝不足か?」「いや…」
       
    ほっといてくれよ… 今は誰とも話したくないんだ。.

    2006-06-08 17:28:00
  • 74:

    ◆/fmXna4sZY

    「……何でもないよ。」 「えっ……伊織?」     
    体のダルさは、きっと昨晩した【薬】のせいだ。

    そう… 俺は、一ヵ月前に興味本位で手を出したドラッグを、―――今だに止められないでいた。

    2006-06-08 17:35:00
  • 75:

    ◆/fmXna4sZY

    『あっ圭吾と伊織じゃん。何してんの?おはよ!』 「あ……泉!うっす!」

    理由は、一つ。ただ、どうしても消せない自分の気持ちを 押し殺す為に――…

    2006-06-08 18:07:00
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