-
夜遊び夜遊び
-
お水お水
-
ホストホスト
-
風俗風俗
-
ビューティビューティ
-
ファッションファッション
-
悩み相談悩み相談
-
モデルモデル
-
芸能芸能
-
雑談雑談
-
食べ物・グルメグルメ
-
生活生活
-
恋恋
-
インターネット・ゲームネット・ゲーム
-
ギャンブルギャンブル
-
過去ログ倉庫過去ログ倉庫
-
運営運営
3Ldkの城・?
-
1:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
?は、↓です。
http://bbs.yoasobiweb.com/test/mread.cgi/yomimono/1132987687/-52005-12-19 14:05:00 -
401:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
振り返ると、千草は首を横に振っている。
“そっとしとこう”というかのように、真顔を見せる彼。
花は、扉から手を放し‥うつむいた。2006-01-12 07:45:00 -
402:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
だが、居ても立ってもいられず‥花は勢いよく扉を開く。
彼女の突発的な行動に、千草は驚いた顔で目を向けた。
2人の目に入ってきたのは、肩を落として座る‥後ろ姿。
花は、唇をかみしめた。2006-01-12 07:48:00 -
403:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
自然と動く体。
花は、彼を後ろから抱きしめた。
顔の下に巻き付けた手の甲が‥次第に濡れていく。
花は、陽平の涙を感じ‥瞳を潤ませた。2006-01-12 07:52:00 -
404:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼を支えようとする花を見て、千草は震える手で拳を作る。
「‥陽平っ」
花は、必死に彼の名を囁いた。
あんなにも‥楽しみにしていたのに。
娘を引き取ることを夢に‥頑張ってきた姿が頭に焼き付いている。2006-01-12 07:56:00 -
405:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「‥‥離れて」
陽平は、花にポツリと囁く。
慰められている‥この状態に、彼はすべてを察していた。
コイツらは、どこかで‥あの光景を見ていた。
そう思うと、浮かれていた自分が恥ずかしくなる。2006-01-12 08:00:00 -
406:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「出ていけやっ!」
離れない彼女に、八つ当たりする彼。
陽平は、花の腕を振りほどき‥怒鳴り散らした。
跳ね飛ばされた彼女は、その場から動けずに彼を見つめる。2006-01-12 08:03:00 -
407:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、そっと彼女に手を伸ばし‥彼から遠ざけた。
そして、大粒の涙を流す彼女を‥部屋へとつれていく。
「もう‥今日は寝いや」
沈んだ表情で呟く千草は、少し間を置いて‥彼女の部屋から出ていこうとした。2006-01-12 08:07:00 -
408:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
だが、背後から鼻水をすする音が聞こえてくる。
千草は、ドアの前で彼女へと振り返った。
肩を震わせ‥泣き崩れる背中。
彼の決心は、もろく消えていく。2006-01-12 08:11:00 -
409:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「‥俺が‥おるよ」
プライドも何もかも捨てた‥情けない表情で囁いていく。
その言葉で、彼女の肩はピタリと震えを止めた。
だが数秒して、再び崩れていく。2006-01-12 08:16:00 -
410:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、彼女を背後から抱きしめた。‥そう、彼女が彼を抱きしめたように。
彼女の震える肩が、千草の体を揺らし‥胸を締め付けていく。
「‥頼むから。もう‥アイツのことで泣くなや」
千草は、今でも減ることのない想いを一気に吐き出していく。2006-01-12 08:22:00 -
412:
名無しさん
ぱぱらっち
2006-01-12 18:29:00 -
413:
きさ
しぉり?主さん頑張ってね(^-^?)
2006-01-12 19:54:00 -
416:
名無しさん
あげ?
2006-01-13 19:52:00 -
417:
名無しさん
あげ!!!
2006-01-14 17:35:00 -
418:
名無しさん
書いて?
2006-01-15 16:32:00 -
419:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
皆さん、いつもありがとうございますo(_ _*)o今から書きますφ(._.)
2006-01-15 19:15:00 -
420:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
あ、すみません。用事が(>д
2006-01-15 19:22:00 -
421:
??
頑張ってはよ書いて??毎日見て更新されんの待ってんねん??
2006-01-16 00:39:00 -
422:
ゆな
夜中更新するんじゃないんですか?寝むいけど待ってるんですが。
2006-01-16 05:12:00 -
423:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
やっと落ち着きました(_
2006-01-16 05:39:00 -
424:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「もう泣くな。俺のこと…見てや」
千草は、彼女の髪の毛に顔を埋めた。
熱い想いに包まれながら、花はまぶたを下ろした。
まつげを濡らした粒は、顎へと流れ落ちる。2006-01-16 05:47:00 -
426:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「千草…」
「家見つけんの…難しいんやったら、俺と住もう」
彼女は、絡みつく腕を振り払うかのように、体をねじった。しかし、千草は彼女が離れないように、腕に力を込めていく。
「放し…」
「俺がおるやん!!」2006-01-16 15:08:00 -
427:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、逃れようとする彼女に叫んだ。
花は、ゆっくりと顔を上げる。
「…俺を見て」
うずくまるかのように体を伏せて、小さく呟く千草。2006-01-16 15:15:00 -
428:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼の強い想いが、花の胸を苦しくさせていく。
彼女の表情は、険しく歪んでいく。
…こんなにも強く想ってくれてるのに、心は…陽平を欲してる。
答えてあげれない悔しさに、花は唇をきつく噛みしめた。2006-01-16 15:28:00 -
429:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ごめん…」
乾いた喉に…掠れた声を流していく。
「…イヤや」
断られても、千草は諦めようとしない。
小さな子供のように、彼は彼女の背中にしがみついた。2006-01-16 15:33:00 -
430:
名無しさん
切ないなぁ(;Д;)千草も花のも気持ちわかるぅセツナイ…
2006-01-16 21:51:00 -
431:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
感想ありがとう。最近バタバタしてて、書くの遅くてごめんなさい。
2006-01-17 00:50:00 -
432:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「……ごめん」
引き下がらない彼を前に、花はうつむく。
「イヤや」
千草はギュッと彼女を包み、眉間にシワを寄せた。
自分が欲しがっている…相手。悲しいことに、2人の気持ちは絡み合うことがない。2006-01-17 00:57:00 -
433:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
無理と解っていても、千草は身を引きたくなかった。
“好きな人の幸せを願う”
そんなのは、テレビやマンガだけの話。
千草は、そんな気持ちになることができない。2006-01-17 01:00:00 -
434:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
好きなら、やっぱり…自分の手で幸せにしたい。
これが、ここ数日悩んで…出た答え。
陽平が好きなら、身を引こう。応援しよう。
そう思ったりもした。2006-01-17 01:02:00 -
435:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
でも、素直にそう思うことが出来ない。
花が欲しい。
花といたい。
花がいい。
俺をみて。2006-01-17 01:04:00 -
436:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
陽平のことで泣き崩れる彼女を見て、頭の中に浮かんだ言葉は…
“俺ヲ選ンデ”
…これだった。2006-01-17 01:06:00 -
437:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
何の音もない静けさに、2人の吐息だけが熱を絡ませ…唇の外へと広がっていく。
花は、言葉が見つからず…困り果てていた。
「ごめん。困らせてるんは…解ってる。でも、花だけは渡したくないねん。花だけでいい。他は…何もいらんから」
千草は、彼女をチラリと見て…顔を歪めた。そして、駄々をこねる自分を恥じていく。
でも、気持ちは撤回しない。2006-01-17 01:19:00 -
438:
名無しさん
うわぁもうたまらん??切なすぎる?胸痛いやん?芽衣チャン頑張って書いてな?この小説ほんま好きやわ?
2006-01-17 02:34:00 -
439:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
ありがとう(>д
2006-01-17 15:36:00 -
440:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
花は、瞳を閉じて…深く息を吸った。
小刻みに震える彼の手を、握り返してあげれない…悔しさ。
もう…嘘はつきたくない。
花は意を決し、彼の瞳を強く見た。2006-01-17 15:40:00 -
441:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「…千草。落ちついて…聞いて」
優しく…彼の髪の毛を撫でていく。
千草は、怯えるような目を彼女に向けた。
「…あたし、千草のこと…大事に思ってるねん。……最初は嫌な奴やと思ってたけど、今は…ほんまに大切な人」2006-01-17 15:44:00 -
442:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
花の優しい口調に、千草は潤ませた瞳を落とし…下唇を噛んだ。
「だからこそ、利用したくないねん。…つらいから、しんどいから…千草と付き合う。そんなんは…間違ってるから。」
花は、胸に詰まる彼への思いを…途切れ途切れに囁いていく。
「だから、千草とは付き合われへん。千草を大事にしてるからこそ、そんなことは…絶対にしたくないねん」
力強く答える彼女に、千草は崩れるかのように…肩を落とした。2006-01-17 15:53:00 -
443:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
力を抜いた腕が、体からスルスルと離れていく。
花は、彼の髪に触れていた手に、やるせない思いを込めた。
指と指の隙間から、柔らかな髪の毛が流れる。
「…わかって」
彼を映した視界は、次第に歪んでいく。2006-01-17 16:01:00 -
444:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
まばたきと共に、頬は濡れていく。
花は、静かに涙を流した。
タタミに滲む…涙の粒。
それを眺め、千草は唇から歯を放し、深いため息をついた。2006-01-17 16:07:00 -
445:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
受け入れたくない…結果。
出来ることなら、もう一度…駄々をこねたい。
でも、きっと…そんなことをしても、花は俺を選んでくれない。
千草は、涙を浮かべた目に彼女を映す。2006-01-17 16:15:00 -
446:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そして、最後のワガママとして…彼女を抱きしめた。
…強く…強く、想いを込めて。
この腕を放せば、もう…こんな風に彼女を想うことも出来なくなる。
千草は、微かな時間を胸に刻み込んだ。2006-01-17 16:18:00 -
447:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「…わかった」
彼女の髪の毛に顔を埋め、噛みしめるかのように…その台詞を呟く彼。
…手に入らなくても、自分を大切にしてくれている気持ちがある。
叶わぬ想いは、彼女の優しさで溶けていく。
彼の言葉に、花は目を見開き…そして優しく視界を塞いだ。2006-01-17 16:24:00 -
448:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
【つづく】
2006-01-17 16:30:00 -
450:
あすか
しおり??
2006-01-17 18:54:00 -
454:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
皆さん、本当にいつもありがとうございますo(_ _*)o
2006-01-18 08:54:00 -
455:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
コトン…。
部屋へと戻った千草は、棚の横に立ててある鏡に自分を映した。
頬を縦に切る…一筋の跡。
彼は、指先でそれを消していく。
もう…彼女を忘れなければならない。2006-01-18 14:43:00 -
456:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は濡れた指先を擦り、ポケットから煙草を取り出した。
煙を吸い込み…ゆっくりと吐き出す。
だが、うまく吸うことが出来ない。
吸って吐く中で、唇は震え…涙が溢れてくる。
彼は声を押し殺し、一晩中…涙に溺れていた。2006-01-18 14:47:00 -
457:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「俺もこの部屋出ていくから、3月の末までに…部屋見つけといて」
朝を迎え、2人がリビングに顔を出すと…陽平は玄関で靴を履いていた。
背を向けたまま、淡々と用意を済ませた彼は、先に部屋を出ていく。
残された2人は、数回会話を交わし…仕事場へと向かった。2006-01-18 14:56:00 -
458:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「桜井、これ。基盤先のリストや」
騒がしい社内で、上司から束ねた資料を受け取る陽平。
彼は、デスクにヒジをつき…それを眺める。2006-01-18 15:00:00 -
459:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
紙を持つ手は、脳内に浮かぶ記憶によって停止する。
…元嫁が言った…最後の言葉。
震える指先は、紙にシワを作り出す。
陽平は、険しい顔で…一点を見つめていた。2006-01-18 15:04:00 -
460:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
確かに、妊娠がキッカケで…俺たちは結婚した。
でも、愛してなかった訳じゃない。
…若すぎたから、余裕がなかっただけ。
俺は…俺なりに頑張っていた。2006-01-18 15:07:00 -
461:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
生活費を稼ぐ為に…仕事に打ち込んできた。
でも…彼女の言うとおりかもしれない。
心のどこかで、自由を失ったことを…恨んでいたかもしれない。2006-01-18 15:10:00 -
462:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
昔から…そうやった。
俺は、いつも同じ理由で人を失ってきた。
自分でも…自覚している理由。
…俺は、人と…深く付き合えない。2006-01-18 15:12:00 -
463:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
人に近づくときも、触れ合うときも、いつだって…俺は一線を引いている。
別に意識をして…引いているわけじゃない。
ただ、深く…込み入ることが出来ないだけ。
そうやって、何人もの人間を振り払ってきた。2006-01-18 15:15:00 -
464:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
元嫁にも…花にも、同じ理由で突き放してきた。
自分にいっぱいいっぱいで、自分が一番大切で、面倒なことから…逃げてばかり。
でも、愛してなかったわけじゃない。
こうするしか…出来なかった。
こんな風にしか、愛せなかった。2006-01-18 15:18:00 -
465:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
…その日から数日間、3人は別々に…部屋を見つけていく。
「ここと…ここに書いてほしいねん」
3月の末を目前にした…休日。
花は、父親の家に訪れていた。2006-01-18 15:23:00 -
466:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そこは、以前とは打って変わった空気が佇んでいる。
あの親子が出ていった…殺風景な家。
保証人を原因に部屋は見つからず、花は唇を噛んで…父親に連絡をした。
予想外に、事は淡々と進んでいく。
父親は嫌がることもなく、静かに受け入れてくれた。2006-01-18 15:31:00 -
467:
きさ
主さん頑張ってね?
2006-01-18 15:33:00 -
468:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「…また、家に…遊びにおいで」
最後の箇所にハンコを押しながら、父親は…弱々しく囁いた。
その言葉を耳に、花は父親をジッと見つめた。
こぢんまりとした…体。
あんなに大きく威圧感を漂わせていた父親は、いつのまにか…こんなに小さくなっていた。2006-01-18 15:40:00 -
469:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
きさサン、いつも応援ありがとo(_ _*)o
2006-01-18 15:41:00 -
470:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ちゃんと…ご飯食べてるん?」
花は、ポツリと小さく声をかけた。
「最近は…コンビニ弁当やな」
父親は下を向いたまま…答える。
家に訪れてから、初めて交わす…まともな言葉。2006-01-18 15:47:00 -
471:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ありがと。じゃあ、また…来るわ」
玄関のドアノブを手に、花はクルリと後ろを振り返る。
父親はコクリと頷き、優しく微笑んだ。
少し開けたドアの隙間から…明るい光が射し込んでくる。
花は腕の動きを止めて、顔をしかめた。2006-01-18 15:51:00 -
472:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そして、鞄の中から書類を取り出す。
不思議そうに見る父親の視線を背に、彼女はそれをゆっくりと破いた。
「お前っ…」
突然の行動に、父親は身を乗り出し…草履を履いた。2006-01-18 15:54:00 -
473:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「お父さん、あたしの料理…食べたことなかったよな?」
花はニコッと振り返る。
父親は眉間を寄せたまま、口を少し開いた。
「…コンビニ弁当よりは、おいしいと思うで」
そう言って、彼女は優しく笑みを見せた。2006-01-18 15:58:00 -
474:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
外から入り込んでくる、暖かい季節の風。
…もうすぐ春。
まだ…それは冷たくて、肌は慣れていない。
花は、父親と住むことを…決意した。2006-01-18 16:02:00 -
475:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「誕生日、おめでとう」
3人で過ごす最後の夜、花は千草と2人で…陽平を祝う。
そこは、花のときみたいに…出来る限り部屋を華やかに飾っていた。
玄関口で立ち尽くす彼は、驚いた表情で足を近づけてくる。2006-01-18 16:14:00 -
476:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
鮮やかな色を広げた料理、数本のローソクに灯る…暖かな赤。そして、それに照らされた柔らかな微笑み。
視界に映る…淡い空気に、陽平の胸は罪悪感を点滅させていく。
「ほら、火ぃ吹いてっ」
花は、呆然と立つ彼に声をかけた。2006-01-18 16:22:00 -
477:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
陽平はゆっくりと腰を下ろし、息を吹いていく。
火が消えると共に、真っ暗になる部屋。
千草はスクッと立ち上がり…電気をつけようとした。
そのとき、陽平の声が微かに聞こえてくる。2006-01-18 16:26:00 -
478:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「…ごめんな」
乱れた呼吸に揉まれながら、囁かれる言葉。
静かな空間に、鼻水をすする音だけが流れていく。
…今まで自分のことばかり考えてきた。
そんな俺に、2人は最後まで優しく…過ごそうとしてくれる。2006-01-18 16:30:00 -
479:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
泣き崩れる彼に心を打たれながらも、2人は賑やかに振る舞っていく。
3人で過ごす最後の夜は、今までで1番…心を通わせることの出来た時間になった。2006-01-18 16:35:00 -
480:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「じゃあ、これ」
「今までありがと」
翌朝…最後の荷造りをする陽平に、花と千草は鍵を手渡していく。
赤と水色のリボンをくくりつけた…同じ鍵。
陽平は、それを受け取ると…ポケットにしまい込んだ。2006-01-18 16:41:00 -
481:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、彼のポケットを眺め…深呼吸をする。
そして、足元に置いていたバックに手を伸ばした。
「じゃあ、俺…行くわ」
そう言って、部屋を後にする。2006-01-18 16:44:00 -
482:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼を見送った後、残された2人は顔を見合わせた。
「…じゃあ、あたしも」
気まずさが広がる前に、花は彼から目を逸らし…荷物を背負う。
「また、遊ぼな」
花は、その言葉を置いて靴を履いた。2006-01-18 16:47:00 -
483:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
…この部屋の匂いも、最後。
花は、ゆっくりとそのドアを閉めた。
…初めてこの場所にきた日が、つい最近のことのように思えてくる。
一段一段…階段を踏みしめる度に、今までの数ヶ月が蘇っていた。2006-01-18 16:53:00 -
484:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「100均…行こっかな」
花は、階段を下り終わると…ポツリとつぶやいた。
そして、コンクリートの建物に背を向け…歩き出す。
一方、ひとり残された陽平は…再度荷造りを進めていく。2006-01-18 16:58:00 -
485:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
電気を消した…数々の部屋には、たくさんの思い出が詰まっている。
元嫁や子供と過ごした日々。そして、花や千草との…賑やかな空気。
それは、全て…ダンボールの中には入らず、今も余韻を広げている。
違う形にすることが出来たのかもしれない。
彼の中で、様々な悔いが込み上げていた。2006-01-18 17:03:00 -
486:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ありがとうございました。またお越しくださいませぇ」
店員の声を途切る…自動ドア。
花は、百円均一の店を後にし…父親が住む家へと足を進めていく。
そして上を向いた。2006-01-18 17:06:00 -
487:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
ふんわりとした雲を浮かべる、青の空。
彼女は白いナイロン袋をギュッと握りしめ、瞳を閉じた。
…長い冬が終わっていく。
2006-01-18 17:09:00 -
488:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
この数ヶ月、陽平と住んだことによって…素直な気持ちをもてた。
何年もの間、塞ぎ続けてきた想い。
結果は、実らなかった。
でも、後悔はしていない…。2006-01-18 17:12:00 -
489:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「やっと、前に進める…かな」
太陽の光に照らされた…彼女の表情は、どこかスッキリとしていた。
「さぁ、さっさとこれ片づけて…手料理食わせらな」
父親とは、少しずつ…話せるようになってきた。きっと、いつか…本当の親子に戻れる日が…絶対にくる。
花は、凛とした表情で家へと向かった。2006-01-18 17:17:00 -
490:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「よしっ、後は事務局行くだけやな」
荷物を全て運び終えた陽平は、ポケットに手を入れた。
2人から受け取った鍵を、手のひらで包み…眺める。
そして、リボンを外していく。2006-01-18 17:20:00 -
491:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「はぁ、やっと取れた」
きつく結びつけられた赤いリボンを外し、一息つく。
そして、千草の鍵に目を向けた。
「…あ、こっちはメッチャ緩い」
独り言を呟きながら、緩んだ結び目を解いていく。2006-01-18 17:24:00 -
492:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そして、目を見開いた。
水色の布には、鉛筆で記された…薄い文字。
それを眺め、彼の表情は重く化していく。
そして、リボンを強く握りしめ…部屋を飛び出した。2006-01-18 17:27:00 -
493:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「そろそろ気づくかな」
新しい部屋にたどり着いた千草は、時計を眺める。
彼は、昨夜…鍵を彩るリボンに願いを込めていた。
「…ほんまに、面倒くさい奴ら」
そう言って、ダンボールに入っている荷物を片づけていく。2006-01-18 17:32:00 -
494:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そのとき、突然…インターホンの音が部屋中に広がっていく。
千草は不思議そうに立ち上がり、玄関のドアを開けた。
そして、ポカンと口を開く。2006-01-18 17:34:00 -
495:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼の元に訪れたのは、事務員の彼女だった。
驚いた表情の千草は、少し下を見て…優しく微笑んだ。
「部屋片づけんの…手伝ってくれる?」
その笑顔は、昔の彼を映し出すかのようなものだった。
微かな希望の光が、彼に差し込んでいく。千草は、彼女に心を開き始めていた。2006-01-18 17:41:00 -
497:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「買いすぎたかも…」
帰りしなスーパーに寄った花は、ナイロン袋を覗きながら歩いていた。
自然と3人分買う癖がついている。
花は、そんな自分をクスクスと笑いながら…顔を上げた。2006-01-18 17:44:00 -
498:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そして、目が点になる。
2006-01-18 17:45:00 -
499:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
“松浦”と記した表札は、陽平の背中で隠されていた。
立ち止まる彼女は、呆然と彼を眺めている。
「…ごめん」
ポケットの中のリボンを強く握り、陽平は気まずそうに目を伏せた。2006-01-18 17:50:00 -
500:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼女の瞳は次第に潤んでいく。
「夕飯…食べてってよ。多めに買ってもたから…」
涙に濡れた笑顔で、彼へと走っていく。
花は、後悔を抱えた彼の胸へと飛び込んだ。
春を描くアスファルトには、ポトリと落としたナイロン袋と…重なる影。2006-01-18 17:56:00