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3Ldkの城・?
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1:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
?は、↓です。
http://bbs.yoasobiweb.com/test/mread.cgi/yomimono/1132987687/-52005-12-19 14:05:00 -
251:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
黙ったままの千草に、花は背を向けて‥キッチンへと歩いていく。
千草は、コンロに火をつける彼女をジッと眺めていた。
「先、ご飯食べいよ。温めるだけやから」
いつも通りに振る舞う姿。
千草の顔は険しく化していく。2006-01-06 12:34:00 -
252:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
なんで‥そんなにスッキリした顔なん?
“‥陽平は残業?”とか、アイツの帰りを待ってたかのような言葉。
俺のこと、全然見てくれてない。
いつも‥陽平ばっか。2006-01-06 12:39:00 -
253:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、落としていた視点をゆっくりと上げていく。
そして靴を脱ぎ、キッチンへと向かう。
淡いピンク色のジャージに、長い髪をまとめ上げた‥お団子頭。
淡々と夕食を作る後ろ姿を、静かに眺めた。2006-01-06 12:44:00 -
254:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「‥キスしよ」
千草は、背後から静かに囁いた。
‥カタン。
動揺を表すかのように、物音をたてる彼女。
彼は、振り返らない背中へと近づいていく。2006-01-06 12:47:00 -
255:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「花‥」
彼女の体を、後ろから抱きしめる。優しく‥そして強く。
静まり返った空間には、コンロと換気扇の音だけが響いている。
花は、肩を震わせて‥うつむいた。
「‥ごめん」2006-01-06 12:52:00 -
256:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
苦しげにつぶやく言葉が、胸に突き刺さる。
千草は、彼女の髪の毛に顔を埋めた。そして、彼女を抱く腕に力を込める。
「俺のこと‥見てや」
風呂上がりの彼女から薫る‥清楚な匂いが、悲しさを増していく。
「‥ごめ‥」2006-01-06 12:59:00 -
257:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
唇を噛みしめるかのように、息と共に流れていく‥答え。
千草は、瞳をまぶたで隠し‥眉間を寄せた。
「‥そんなに陽平がいい?」
小さな声で問いかける。2006-01-06 13:03:00 -
258:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
こうやって‥彼女の体を抱きしめることが出来ても、心までは手が届かない。
千草は、行き止まる自分を悔やんだ。
花は、少し間を置いて‥口を開けた。
「‥うん」
ハッキリと告げられた気持ち。2006-01-06 13:07:00 -
259:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、そっと目を開ける。
茶碗を持つ手は‥震えていた。
彼は、腕の力を緩めていく。
そして、何も言わず‥彼女から離れた。2006-01-06 13:10:00 -
260:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
素早く洗面所へと向かい、勢いよく水で顔を洗う彼。瞳からこぼれる想いを‥洗い流すかのように。
そして、タオルで水滴を取り‥鏡を見つめる。
‥赤く染まった瞳や鼻は、彼女への気持ちが本気だったことを表していた。
千草は、深く呼吸を整える。
そして、再度キッチンへと向かった。2006-01-06 13:18:00 -
261:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼はガタンと椅子に腰掛け、彼女を見上げた。
背を向けたままの彼女を眺めると、顔を見なくても‥表情が目に浮かんでくる。
「飯、まだぁ?」
何もなかったかのように、千草は平然と声をかけた。
花は、黙ったまま‥動かない。2006-01-06 13:22:00 -
262:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
小刻みに震える彼女に、喉は苦しくなる。
千草は、彼女から目を逸らし‥唇を噛んだ。
「腹‥減ったし」
ひじをつき、頬に手を当てる。
「ごめんっ」2006-01-06 13:27:00 -
263:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
目を手の甲で擦り、彼女は急いで用意をした。
恐る恐る‥前に出された手料理を、千草は黙々と口に含んでいく。
「‥うまい」
千草は、彼女に微笑んだ。
彼女の出した答えを、飲み込むかのように。2006-01-06 13:35:00 -
264:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
その優しい笑顔を前に、凍っていた彼女の表情は‥柔らかく解れていく。
花は、最後まで甘えさせてくれる彼に‥胸を痛めていた。
届かぬ想いは、無理やり作る表情と共に溶かしていく。
千草は、彼女から身を引くことを決意した。2006-01-06 13:41:00 -
265:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
【つづく】
2006-01-06 13:42:00 -
267:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
270サン、ありがとう。今日は、出来る限り更新しますね。ミナサンが優しく待っててくれたので、感謝の気持ちを込めてφ(..)
2006-01-06 14:57:00 -
268:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
‥あの夜、千草は優柔不断なあたしに笑いかけてくれた。
ミモザの花のような‥優しい表情をくれた彼。
彼をふったことを後悔しない為にも、あたしは素直にならなあかん。
あたしは、千草の優しさに誓った。
自分の本音と向き合うことを。2006-01-06 15:08:00 -
269:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「俺、ツレと遊んでくるわ」
休日の午後、千草はリビングから離れていく。
コタツに身を暖める2人は、彼を黙って見送った。
あの日以来、3人でいると‥千草は絶対離れていく。
きっと、気を遣ってくれている。2006-01-06 15:13:00 -
270:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
花は、千草の行動を切ない瞳で眺めていた。
「俺、掃除しよ」
スクッと立ち上がる陽平。
花は、自分の部屋へと向かう彼をみた。2006-01-06 15:16:00 -
271:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
あのキス以来、陽平は2人になることを避けている。
千草の気遣いで2人になる度、彼は何かと離れていこうとする。
1人になり、花はため息をついた。2006-01-06 15:19:00 -
272:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
‥何を考えてるんか解らへん。
彼女は、意を決し‥彼の部屋へと足を運ぶ。
そして、ゴクリとツバを飲み‥ドアに手を伸ばした。2006-01-06 15:27:00 -
273:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
ドアを開けると、目に映ったのは‥腰を下ろした彼の横顔。
「‥何?」
彼は、こちらを見ずに‥問いかけてくる。
本棚を整理する手が止まらないことに、花は戸惑った。
‥どう切り出せばいいか‥わからない。2006-01-06 15:31:00 -
274:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
本を置く音だけが、2人の耳に流れていく。
花は、開きかけた唇を閉じて‥うつむいた。
陽平は、淡々と作業を進めている。
彼から滲み出る‥その空気は、彼女の言葉を封じるかのように壁を作っていた。2006-01-06 15:38:00 -
275:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
どう切り出せばいいのか‥わからない。
花は、勇気を出して‥彼をみた。
「‥き」
2006-01-06 15:43:00 -
276:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
掠れた言葉が、静かな部屋に落ちていく。
本を持つ手が、ピタリと止まる。
彼が初めて見せる自分への反応に、花は胸を熱くした。
「‥陽平のことが‥‥好き」
ずっと‥ずっと言えずにいた言葉。2006-01-06 15:49:00 -
277:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
陽平は、ずっと言わせてくれへんかった。
‥ううん、違う。
あたしが、言おうとせぇへんかったんや。
関係が崩れることを恐れて、前に踏み込めずにいたから。2006-01-06 15:54:00 -
278:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
でも、もう‥無理。
自分を守る為の我慢も、自分を苦しめているものってことに‥気づいたから。
‥伝えたかった。
ずっと‥言いたかった。2006-01-06 15:56:00 -
279:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
花は、真っ直ぐ彼を見つめた。
すると、陽平はジュウタンの上に本を置く。
そして、花を見上げた。2006-01-06 15:58:00 -
280:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
ふたつの視線が‥ゆっくりと合わさっていく。
張り裂けそうな胸。
花は、彼への視線に想いを込めた。
だが、彼の自分を見つめる瞳は‥冷たい氷のようだった。2006-01-06 16:03:00 -
281:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「キスされて、その気になった?」
笑い声と共に‥言い放たれた台詞。
陽平は、彼女を馬鹿にするかのような目で見上げた。2006-01-06 16:06:00 -
282:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
黒目を浮かせた‥その白い瞳に、花の表情は曇りを見せていく。
陽平は、再度手を動かし‥本を取った。
「悪いけど、あれに意味はないから。‥気持ちなんかない」
本棚に手をつき、彼女を傷つけていく。2006-01-06 16:17:00 -
283:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「からかっただけ」
立ち尽くす花を‥再度見上げて、彼は乾いた笑顔を見せた。
彼女は、彼を見下ろし‥口を開いたまま。
「てか、寒いから閉めてくれへん?ドア」2006-01-06 16:21:00 -
284:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
冷めきった顔で、彼女を突き放す彼。
花は、開いた口を閉じ‥部屋から出ていった。
何も言わずドアを閉め、自分の部屋へと歩いていく。
彼女は電気もつけずに、ドア際でしゃがみ込んだ。
真っ暗な冷たい空間に、絶望感が広がっていく。2006-01-06 16:29:00 -
285:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
花は、声を潜めて‥ヒザを濡らした。
一方、陽平は本棚を見つめたまま‥肩を落としていた。
そして、閉められたドアを見つめ‥表情を歪めていく。
【つづく】2006-01-06 16:32:00 -
286:
りな
早く,花と陽平くっついてほしいよぉ〜(>_
2006-01-06 19:23:00 -
287:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
リナサン(o^^o)イツモありがとう☆☆
2006-01-07 03:55:00 -
288:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
窓から差し込む陽射しを、カーテンで覆い被せる。
陽平は、襟元に通したネクタイを‥慣れた手つきで結いで、鏡の前に立った。
そして、スーツを手にしながら‥自分を見る。
枠を通して映す幻影は、目の前にいる男が傷つけた彼女の姿。
罪悪感が、袖を通す腕を静かに止めた。2006-01-07 04:15:00 -
289:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
身勝手な自分に‥後悔の雨が降り注ぐ。
だが、胸に秘めた決意を思い出し、鏡から目を背けた。
今、恋愛なんかしてる暇はない。
守らなければならない‥大切な存在が、乱れた思考を整えていく。
陽平は、ネクタイを軽く締め直し‥部屋を出た。2006-01-07 04:23:00 -
290:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
リビングへ足を踏み込むと、そこには‥いつもと同じ光景が流れていた。
テレビを眺めながら、パンを頬張る千草。そして‥
「おはよっ」
せわしなく動き回る花が、明るく自分に微笑んでくる。
陽平は、屈託のない‥その笑みに戸惑った。2006-01-07 04:31:00 -
291:
削除削除されますた
あぼ~ん -
292:
名無しさん
長い
2006-01-07 06:14:00 -
293:
削除削除されますた
あぼ~ん -
295:
ハナ
頑張ってくださぃ☆彡 1のときから密かに見てました(o^o^o)毎日更新楽しみにしてますッ♪
2006-01-07 09:41:00 -
296:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
名無しさん、書くのやめてください。
2006-01-07 10:21:00 -
298:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
【読者の皆様へ】
295と297は違う方です。申し訳ないのですが、落ち着くまでトリップを気にしながら読んで下さい。2006-01-07 11:11:00 -
299:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ちょっ、占い始まるから“目覚まし”かけてよぉ」
懐かしのアニメ番組にかじりつく千草に、彼女は足踏みをしながら‥歯を磨く。
昨日の出来事などなかったかのような‥変わらぬ光景を目にし、陽平は自分の記憶を疑った。
酷な台詞を並べ、わざと‥彼女を傷つけたはずなのに。
目の前で動く彼女は、軽快な表情で朝を過ごしている。2006-01-07 11:13:00 -
300:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「今日寝坊したから、パンで許してな」
唖然と立ち尽くす陽平に、花はパンを入れ平らなカゴを指差した。
「‥あ、うん」
彼は、彼女のペースに流されるまま‥動いていく。
そのぎこちない態度を、千草はパンをかじりながら眺めていた。2006-01-07 11:20:00 -
301:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「俺‥残ってる仕事あるから、先‥行くわ」
「あ、ほんま?気ぃつけてなぁ」
調子が狂った陽平は、パンを片手に玄関へと向かう。花は、そんな彼を明るく見送った。
‥パタ‥ン。
彼がドアを閉めると、同時に花は呆然となる。2006-01-07 11:24:00 -
302:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「どうしたん?ボーッと突っ立って」
コーヒーカップを口の前にし、千草は彼女の様子を伺った。
「‥あ、何もないよ」
彼の声で我に返った花は‥平然を装い、テキパキと用意を済ませていく。
花は、ゆうべ‥眠れずにいた。そして、朝方‥数時間だけ眠り、起きたときに決意した。陽平に、明るく接していくことを。2006-01-07 11:30:00 -
303:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、2人の間に何かあったことを察知していた。
だが、見て‥見ぬフリをする。
これに関われば、きっと自分は‥つらい思いをする。
彼は、無理やり明るく振る舞う彼女から‥目を逸らした。2006-01-07 11:35:00 -
304:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
【つづく】
2006-01-07 11:44:00 -
305:
みぃ?
名無しなんか気にせんと頑張ってなぁ??
めっちゃ応援してるし?2006-01-07 17:04:00 -
306:
削除削除されますた
あぼ~ん -
307:
削除削除されますた
あぼ~ん -
308:
名無しさん
昨日、見つけて全部読みました?展開が面白いー?続き楽しみにしてまぁす?
2006-01-07 17:51:00 -
309:
削除削除されますた
あぼ~ん -
310:
削除削除されますた
あぼ~ん -
311:
名無しさん
あの〜荒らしなんか無視したらいーんぢゃないですか? 反論するから荒らされるんすよ?
2006-01-07 18:58:00 -
312:
名無しさん
やかましい
2006-01-07 19:32:00 -
315:
アユコ ◆vlwsLLt5WQ
お久しぶり??ずっと覗きにきてたでぇ?続きが予想できひんくてドキドキやわぁ???頑張ってねぇ?
2006-01-07 23:42:00 -
317:
夏菜
はじめまして。
めっちゃハマりました★
携帯の充電切れる位一気に読んだょ(◎`・ω-)ノ
完結楽しみにしてます♪2006-01-08 16:07:00 -
318:
アユコ ◆vlwsLLt5WQ
頑張れ☆☆☆☆みんな芽衣ちゃんの小説楽しみにしてますよ♪負けないでください☆
2006-01-08 23:51:00 -
319:
きさ
更新されてる???バリバリ嬉しい?主さん荒らしとかおるけど無視やで?相手にせんときなぁ?完結まで頑張ってネン??応援してるよ?
2006-01-09 02:12:00 -
320:
名無しさん
前は大好きだったのにちょっと前から読んでてもイライラしかしない‥。すごく残念。でも応援はしてるよ!最後までがんばれ!感じ悪かったけど、最後の感想なので許してください。
2006-01-09 04:19:00 -
321:
削除削除されますた
あぼ~ん -
322:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
お久しぶりの方も、はじめましての方も、いつも書いてくださる方も、最後の方も、本当にありがとうございます。様々な感想を肥やしにして頑張りますo(_ _*)o
2006-01-09 07:36:00 -
323:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「桜井、流石やなぁ」
職場の同僚たちが、成績のグラフを眺め‥陽平を誉めている。
昼食を終えた千草は、デスクから彼に目を向けた。
最近、陽平は残業をしたり‥基盤先を妙に増やしまくっている。
がむしゃらに働く彼は、昼食も食べずにパソコンに向かっていた。2006-01-09 07:46:00 -
324:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「常盤さんっ」
陽平に目を奪われていると、手元にマグカップが置かれる。
千草は、声の主に振り返った。
「‥今晩、空いてます?」
誘いを持ちかけてくるのは、事務員の女の子。2006-01-09 07:51:00 -
325:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼は、ニッコリと微笑んだ。
「空いてるよ」
最近、千草はこうやって‥日々の予定を女で埋めている。理由は、花のことを忘れるため。
この事務員の女の子とは、前に1度ご飯を食べただけ。
いちいち上目遣いで見てくるから‥、花にふられた次の日に誘ってみた。2006-01-09 07:59:00 -
326:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「やったぁ」
事務員の彼女は、満面の笑みを見せて喜んでいる。
千草は、彼女に待ち合わせ場所を知らせて、再度パソコンへと目を向けた。
‥女って簡単。1度飯食っただけで、その気になって‥身なりが派手になる。2006-01-09 08:04:00 -
327:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
‥花以外は、簡単に落とせるのに。
キーボードを触る手は、ピタリと動きを止めた。
千草は、花の笑顔を思い出す。そして、ため息をついた。2006-01-09 08:07:00 -
328:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「花も‥一緒か‥」
そう呟いて、指を無理やり動かせた。
‥花かって、他の女と同じように浮かれたりしていた。
ただ‥それは、俺の前ではなく‥陽平に対して。
千草は、手に入らない彼女に‥虚しさを募らせていた。2006-01-09 08:13:00 -
329:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「基盤先に行ってきます」
「お。直帰か?」
「いえ、帰ってきますよ。残業するつもりなんで」
陽平は、上司に一言を告げて‥会社を出た。2006-01-09 08:15:00 -
330:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
夕焼けが落ちる空の下、彼はポケットから携帯を取り出した。
そして、アドレス帳から‥滅多に出すことのないメモリを引き出す。
画面に映されたのは‥元嫁の名前。
陽平は、深呼吸をして‥発信ボタンを押した。2006-01-09 08:20:00 -
332:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
今の生活に行き詰まりを感じている。
そろそろ‥動き出した方がいいのかもしれない。
はっきりさせて、花からも‥離れるべき。
耳元で鳴り響く呼び出し音に、陽平の胸はざわめき始める。2006-01-09 08:25:00 -
333:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そして、呼び出し音が切れる。同時に‥懐かしい声が聞こえてきた。
陽平は、表情を引き締めて‥口を開けた。
「‥俺やけど、元気か?」
空には1本の飛行機雲。彼は今‥意を決し、動き出そうとしていた。2006-01-09 08:33:00 -
334:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
【つづく】
2006-01-09 08:36:00 -
335:
名無しさん
?
2006-01-09 09:04:00 -
338:
名無しさん
ギャー??気になる?全部読んできました?主サンいつもかいてくれて本当にありがとう?
2006-01-09 15:06:00 -
340:
あや
あげ?
2006-01-10 15:22:00 -
341:
名無しさん
更新まだですか?
2006-01-10 23:14:00 -
342:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
更新遅れてスミマセン(>д
2006-01-11 16:02:00 -
343:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
もう少し後で書き始めます。
2006-01-11 16:02:00 -
344:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「近々、マジで‥出ていってもらいたい」
数日後、朝食時にその台詞を告げられた。
静まり返ったリビング、テレビのCMだけが途切れず流れている。
花と千草は声を忘れ、まばたきだけ繰り返していた。2006-01-11 16:58:00 -
345:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
ここ何日か、3人の生活は派手にずれていた。
毎日残業の陽平は、日が変わる前後に帰宅する。
千草は、帰ったり帰らなかったり。帰っても、酔っ払ってて‥すぐ寝てしまう。
花は、通常通りに‥仕事と家の往復だけ。「夕飯は外で食べてくる」という2人の言葉で、夕食は簡単なものを調理してきた。
“寝るだけの場所”と化した家で、3人は久しぶりに顔を合わせた。そして、「話がある」と陽平に呼びかけられる。2006-01-11 17:07:00 -
346:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「‥実は、子供を引き取ろうと思ってんや。ずっと前から‥決めてたことやねん。だから、この家から出ていかんと‥生活してた」
返事を返さない2人に、陽平は理由を説明する。
花は、引っ越し当時に見た‥あの写真を思い出す。
「‥すまんな」2006-01-11 17:13:00 -
347:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
うつむき‥謝る彼。
「‥わかった。部屋探すわ」
千草は、指で挟んでいた煙草を灰皿にすり付けた。
以前から、部屋を出ることを考えていた彼は‥すんなりOKの返事を出した。
そして、チラリと花を見る。2006-01-11 17:16:00 -
348:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼女は、一点を見つめ‥沈黙を続けている。
その姿を、陽平は見て見ぬ振りをしていた。
そして、彼女の返事を聞かずに話を進めていく。
「まだ、話は決まったわけじゃないねんけどな。絶対‥引き取るつもり。血ぃもつながってない父親とおるよりは、環境えぇやろ」2006-01-11 17:22:00 -
349:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「まぁ、そうやな。向こうは、手放す気ないん?」
千草は、彼の決意に頷いている。
2人の会話の中で、花は胸を痛めていた。
‥陽平は、絶対に‥振り向かない。
彼の思いを耳にし、改めて‥自分の気持ちが無謀なものだったと‥気づかされる。2006-01-11 17:30:00 -
350:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「あぁ。“あんたには渡さへん!”って、キチガイみたいに怒鳴ってた」
陽平は、冷静に答える。
「厄介やなぁ」と苦笑いをする千草の横で、花はクイッと顔を上げた。
「出来るだけ‥早く部屋探すなっ」
彼女は、明るい笑顔を陽平に向ける。2006-01-11 17:35:00 -
351:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
“明らかに‥無理をしている顔”
2人の瞳には、そう映っていた。
だが、陽平は微笑んで‥気がついていないフリをする。
千草もまた‥彼女の本音から目を背けていた。
小刻みな震える口元が、この笑顔を嘘だと証明している。2006-01-11 17:44:00 -
352:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
だが‥花は必死で笑顔を崩さぬようにした。
叶わぬ‥想い。
でも“理由が子供なら”とホッとしている自分もいる。
複雑な想いを秘め、納得した態度を彼に示していく。2006-01-11 17:51:00 -
353:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、自分の目に嫌気がさしていた。
彼女を好きにならなければ、平然を装っている姿なんか気づかなかったはず。
きっと‥気づかなかった。
目を背けても、はっきりと聞こえてくる‥彼女の気持ち。
千草は、その場から逃げるかのように‥他の女へと誘いのメールを打つ。2006-01-11 17:59:00 -
354:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「じゃあ、あたしも不動産屋いってみよかな」
先に家を出る千草を見送り、花は外出の支度をする。
彼女の閉めた鍵の音を耳に、陽平は真顔になった。
もう2度と‥突き放さないと誓ったはず。なのに、また‥傷つけてしまった。
中途半端で身勝手な自分に、深いため息しか出てこない。2006-01-11 18:07:00 -
355:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
悔しさが隠る下唇を噛み、前髪を掴む。
でも‥こうするしかなかった。
ずっと、決めていたことやから。
孤独を抱えてきた花を見てきただけに、子供の生活を守りたかった。2006-01-11 18:11:00 -
356:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
花のように、孤独を感じさせたくはない。
だから、引き取りたい。
それを目標に、仕事を頑張ってきた。
この家を離れずに‥生活してきたんや。2006-01-11 18:13:00 -
357:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
陽平は、閉じたまぶたを強く見開いた。
そして、タンスの中から写真立てを取り出し、以前と同じ場所へと置いていく。
1度は見失いかけた目標を‥忘れてしまわぬように。2006-01-11 18:17:00 -
359:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「あっ‥あっ」
指先の動きと共に‥漏れる甘い声。
電気を消した‥薄暗い部屋で、千草は事務員の女の子と関係を作っていた。
余計な感情をもみ消すかのように、汗を流していく。2006-01-11 18:22:00 -
360:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
先を待ちわびる‥汗ばんだ手に、千草は無表情に動いていた。
そして、彼女の中に入ろうとする瞬間、花の横顔が脳内をすり抜ける。
同時に、凍り付く体。
彼は、花を振り切るかのように‥行為を進めていく。2006-01-11 18:28:00 -
361:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
だが、振り払っても‥振り払っても、無理をした花の横顔は‥離れてくれない。
千草は‥自分の思考に苛立ちを覚え、シーツを乱す女から離れた。
そして、険しい表情で煙草をくわえる。
息を荒くした女は、不思議そうに彼の背中を眺めた。2006-01-11 18:39:00 -
362:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、肩を落とし‥煙を吐いている。
‥花の悲しみが、痛いほど‥伝わってくる。
きっと、行き場のない想いに‥今苦しんでいるはず。
振り向かない女。
そんな彼女から逃げようとしても、瞳は‥心はまだ、そこにある。2006-01-11 18:44:00 -
363:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
すると、背に柔らかい感覚がのしかかる。
「‥常盤さん」
事務員の女は、千草の名を愛おしく口ずさむ。
違和感に覆われ、彼はその腕の中からすり抜けた。2006-01-11 18:47:00 -
364:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「出よっか」
千草は、ベッドの上に座る彼女を‥冷たく見下ろした。
女は、その顔を前に‥何も言えなくなる。
ホテルを出た後、千草は女をタクシーの中へと放り込んだ。
そして、曇り空の下を足早に歩いていく。2006-01-11 18:52:00 -
365:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
【つづく】
2006-01-11 18:56:00 -
366:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「うーん‥ないなぁ」
窓ガラスに貼り付けられている物件を眺め‥呟く。
今日も、花は部屋を探している。
バイト生活の彼女にとって、たった一部屋の買い物さえ苦難のもの。2006-01-12 04:57:00 -
367:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
隅々まで見渡すが、これといったものは‥この2週間見つかっていない。
それに、1番ネックに感じているものは‥。
花は、ため息をついた。
「‥誰かおらんかな」
そう、部屋を借りるには‥保証人がいる。2006-01-12 05:00:00 -
368:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
以前は、家を追い出された形だったから‥父親が保証人になってくれた。
でも、この前‥一緒に住むことを拒んだだけに、頼みづらい。
花は、口をへの字に曲げて‥立ち尽くしていた。2006-01-12 05:02:00 -
369:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「千草、もう見つけたんやろか‥」
最近、彼とも‥ろくに話していない。
陽平は、ずっと元嫁さんと‥話し合っている様子。
うまく進んでいないみたいで、機嫌が‥よくない。
流されていく日々に、花は‥自分の気持ちさえ考える暇がなかった。2006-01-12 05:05:00 -
370:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「子供に選ばす?」
その夜、風呂から上がると‥千草の声が聞こえてきた。
花は、バスタオルで髪を拭きながら‥リビングを覗きこむ。
「あぁ。向こうの旦那が‥そう言うてきた。これで完全に引き取れるわ」
陽平は、スッキリとした表情で笑っていた。2006-01-12 05:10:00 -
371:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
花の視線は足元へと落ちていく。
‥陽平は、子供と生きていく。そうなれば、未だ残っている‥この気持ちも‥捨てらなあかん。
確実なものへと近づいていく‥失恋という結果。
花は、胸が苦しかった。2006-01-12 05:13:00 -
372:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「嫁はんは納得してんけ?」
千草は、テーブルにひじをついた。
「納得?‥まぁ、してんちゃう?何も言うてなかったし」
陽平は、知恵の輪を解いたかのように‥軽快な笑みで答える。
そして、ドア際に潜む人影に目を向けた。2006-01-12 05:20:00 -
373:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「‥花」
微かに見えた彼女の体。陽平は、立ち尽くす花に呼びかけた。
彼につられて、千草も目を向ける。
花は、ひょこっと顔を出した。2006-01-12 05:25:00 -
374:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
弱々しく姿を見せる彼女を、陽平は数秒‥見つめる。
そして、柔らかな表情で口を開いた。
「‥ここに来てから、気ぃ使ってばっかやったやろ。ごめんな」
その言葉に、花は顔を上げる。2006-01-12 05:38:00 -
375:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「‥お前らしさ‥出されへんようにしてたかもな。でも‥楽しかった。ありがとうな」
子供を引き取れば、この共同生活も終わりを告げる。
陽平は、心に余裕を取り戻し‥彼女に謝罪する。
花の唇は、言葉を塞いでいく。2006-01-12 05:41:00 -
376:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、顔をしかめたまま‥その光景から目を逸らす。
彼女の寂しさが、痛いほど‥胸にしみていたから。
見上げてくる‥優しい眼差しに、花は喉を詰まらせる。
まるで“永遠の別れ”を告げられているかのような感覚が、彼女の体を震わせていた。2006-01-12 05:47:00 -
377:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
‥2日後。
「じゃあ、行ってくるわ」
朝早くから支度を済ませていた陽平は、時計を眺め‥立ち上がる。
緊張を抱えた顔つきで、玄関へと向かう彼。
花と千草は、静かに彼を見送った。2006-01-12 05:54:00 -
378:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
ガタンと閉じられたドア。
暗くなった玄関で、2人は呆然とたっていた。
花は、苦しくなる胸をなだめるかのように‥深く息を吐く。
そんな彼女を、千草は哀れんだ瞳で見つめていた。2006-01-12 05:57:00 -
379:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「早く支度しろよ」
一向に玄関から動かない彼女。
千草はため息まじりに囁いた。
花はきょとんとした顔になる。2006-01-12 05:59:00 -
380:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「気になるんやろ?見に行こや」
千草は、眉を下げて笑いかけた。
彼の誘いに、花は開いていた口を閉じて‥コクリと頷く。
‥別に見に行きたかった訳じゃない。でも、見ておきたい。
花は、陽平への想いを消化する為に‥出かける用意をした。2006-01-12 06:03:00 -
381:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
子供を引き取ったときの‥幸せそうな顔を見れば、きっと諦めがつく。
少しはまともな表情で‥祝福できるかもしれない。
花は、凛とした顔で家を出た。2006-01-12 06:07:00 -
382:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「あちゃぁ‥。ガッチガチやなぁ」
公園の向かいにある喫茶店の窓際で、彼を眺める千草。
花は、アイスティーを飲みながら‥ストローを噛んだ。
‥よっぽど嬉しいのだろう。
緊張をしている彼は、どこか期待に溢れた‥少年のような顔をしている。2006-01-12 06:31:00 -
383:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
花は、まだ心の準備が‥完全に出来ていなかった。
本当に‥諦められるのだろうか?と、傷つくことから恐れている。
「千草って‥もう部屋きめたん?」
気持ちを落ち着かせるかのように‥、花は別の話題を千草に振った。2006-01-12 06:36:00 -
384:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ん?あぁ、部屋?まだやけど。そういや‥そろそろ探さなあかんなぁ」
思い出したかのように‥視線をあげて、ホットコーヒーを飲み干す彼。
部屋を探すことを簡単に話す千草が、花は羨ましかった。
“保証人”
責任感を被せるかのような‥その重い響きに合う人間が周囲にはなく、刻々と迫ってくる期限に怯える毎日。2006-01-12 06:42:00 -
385:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
アイスティーさえ、ストローを通らなくなっていく。
千草は、窓の外を眺める瞳を‥花へと移した。
何か‥悩んでいる姿。
その理由が何なのかは‥なんとなく気づいている。
だが、深く関わることの出来ない‥関係。千草は、あえて‥その話題にはふれなかった。2006-01-12 06:46:00 -
386:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「あ、あれちゃん?」
ふと視界に映る光景に、指を差す千草。
花は、我に返り‥外を見た。
そこには、以前‥何度か見たことのある女性がいた。
花は、千草に頷いて‥再度眺める。2006-01-12 06:49:00 -
387:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「‥千紗っ」
近づいてくる3つの姿に、陽平は振り返る。そして娘の名を‥呟いた。
新しい父親と元嫁の手を握りしめた‥小さな体。
それは、写真に写るものから‥数倍に成長しているものだった。2006-01-12 06:54:00 -
388:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
自分を不思議そうに見上げ‥2人に視線を送る娘。
陽平は、元嫁に目を向けた。
すると、2人は彼女の手を離す。
‥決断のとき。2006-01-12 06:56:00 -
389:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「あれが‥本当のパパ。ママらとおりたいか、パパのとこ‥行きたいかは、千紗が‥決めていいんよ」
元嫁は娘と同じ背丈になり、彼女に囁いた。
娘は、首を傾げながら‥陽平を眺める。
陽平は、低くしゃがみ込み‥両手を広げた。2006-01-12 07:00:00 -
390:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
その光景を喫茶店から眺める花と千草は、ゴクリとつばを飲む。
「‥千紗っ」
陽平は、声を張り上げ‥呼びかけた。2006-01-12 07:02:00 -
391:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
娘は、そんな彼を黙って見つめている。
そして、怖がった表情で新しい父親へとしがみついた。
陽平の目は‥点になる。2006-01-12 07:05:00 -
392:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
怯えた顔で、新しい父親のズボンを強く握りしめる娘。
「千紗っ、パパんところ‥‥おいで!」
陽平は、眉間にしわを寄せて‥強く呼びかける。
だが、彼女は逃げるように背を向けた。2006-01-12 07:07:00 -
393:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
予想もつかなかった事態に、陽平は彼女へと身を乗り出していく。
だが、娘との間を塞ぐかのように‥元嫁は立ちはだかった。
「怖がってるんやから、やめて」
冷たく言い放たれる言葉。2006-01-12 07:11:00 -
394:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
陽平は、目の前が真っ暗になった。
「あたし、ずっと‥出来ちゃった結婚やったこと‥悔やんできた。あんたは仕事ばっかで、あたしらのこと‥中途にしてたやろ。そんな奴を、千紗が選ぶわけないやん」
元嫁は、歪んだ表情で陽平を見下ろした。
そして、目を逸らし‥離れていく。2006-01-12 07:15:00 -
395:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
陽平は、一点を見つめたまま‥唖然となる。
視界をあげれば、そこには‥円を描いたかのような1つの家族。
下まぶたを縁取る‥淡い涙。
信じられない結果に、陽平はひざを地につけた。2006-01-12 07:19:00 -
396:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
ポタリポタリとこぼれる粒が、土の色を変えていく。
‥偽物に奪われた‥大切な娘。
陽平は、その場から動けなかった。2006-01-12 07:22:00 -
397:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「マジで‥?」
コーヒーカップを皿の上に置き、千草は困り果てた様子で前髪をかきあげた。
‥予想外の展開。
喫茶店から観察していた2人は、沈黙になる。2006-01-12 07:35:00 -
398:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
どんな言葉が交わされたのかは‥わからない。
でも、窓の向こうで流れた光景は‥陽平の期待をはるかに裏切ったもの。
2人は目を合わせ、何も言わず‥そこを後にした。2006-01-12 07:38:00 -
399:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ただいま‥」
“陽平になんて声をかけるべきか”と話し合った結果、答えは見つからなかった。
2人は重い足取りで帰宅する。
予想通り‥リビングには彼の姿はなく、返事も帰ってこない。2006-01-12 07:41:00 -
400:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
2人は、そろそろとリビングへと向かった。
隣にある彼の部屋は、電気がついている。
花は、その扉を開けようとした。
だが、千草がその手を止める。2006-01-12 07:43:00 -
401:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
振り返ると、千草は首を横に振っている。
“そっとしとこう”というかのように、真顔を見せる彼。
花は、扉から手を放し‥うつむいた。2006-01-12 07:45:00 -
402:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
だが、居ても立ってもいられず‥花は勢いよく扉を開く。
彼女の突発的な行動に、千草は驚いた顔で目を向けた。
2人の目に入ってきたのは、肩を落として座る‥後ろ姿。
花は、唇をかみしめた。2006-01-12 07:48:00 -
403:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
自然と動く体。
花は、彼を後ろから抱きしめた。
顔の下に巻き付けた手の甲が‥次第に濡れていく。
花は、陽平の涙を感じ‥瞳を潤ませた。2006-01-12 07:52:00 -
404:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼を支えようとする花を見て、千草は震える手で拳を作る。
「‥陽平っ」
花は、必死に彼の名を囁いた。
あんなにも‥楽しみにしていたのに。
娘を引き取ることを夢に‥頑張ってきた姿が頭に焼き付いている。2006-01-12 07:56:00 -
405:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「‥‥離れて」
陽平は、花にポツリと囁く。
慰められている‥この状態に、彼はすべてを察していた。
コイツらは、どこかで‥あの光景を見ていた。
そう思うと、浮かれていた自分が恥ずかしくなる。2006-01-12 08:00:00 -
406:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「出ていけやっ!」
離れない彼女に、八つ当たりする彼。
陽平は、花の腕を振りほどき‥怒鳴り散らした。
跳ね飛ばされた彼女は、その場から動けずに彼を見つめる。2006-01-12 08:03:00 -
407:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、そっと彼女に手を伸ばし‥彼から遠ざけた。
そして、大粒の涙を流す彼女を‥部屋へとつれていく。
「もう‥今日は寝いや」
沈んだ表情で呟く千草は、少し間を置いて‥彼女の部屋から出ていこうとした。2006-01-12 08:07:00 -
408:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
だが、背後から鼻水をすする音が聞こえてくる。
千草は、ドアの前で彼女へと振り返った。
肩を震わせ‥泣き崩れる背中。
彼の決心は、もろく消えていく。2006-01-12 08:11:00 -
409:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「‥俺が‥おるよ」
プライドも何もかも捨てた‥情けない表情で囁いていく。
その言葉で、彼女の肩はピタリと震えを止めた。
だが数秒して、再び崩れていく。2006-01-12 08:16:00 -
410:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、彼女を背後から抱きしめた。‥そう、彼女が彼を抱きしめたように。
彼女の震える肩が、千草の体を揺らし‥胸を締め付けていく。
「‥頼むから。もう‥アイツのことで泣くなや」
千草は、今でも減ることのない想いを一気に吐き出していく。2006-01-12 08:22:00 -
412:
名無しさん
ぱぱらっち
2006-01-12 18:29:00 -
413:
きさ
しぉり?主さん頑張ってね(^-^?)
2006-01-12 19:54:00 -
416:
名無しさん
あげ?
2006-01-13 19:52:00 -
417:
名無しさん
あげ!!!
2006-01-14 17:35:00 -
418:
名無しさん
書いて?
2006-01-15 16:32:00 -
419:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
皆さん、いつもありがとうございますo(_ _*)o今から書きますφ(._.)
2006-01-15 19:15:00 -
420:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
あ、すみません。用事が(>д
2006-01-15 19:22:00 -
421:
??
頑張ってはよ書いて??毎日見て更新されんの待ってんねん??
2006-01-16 00:39:00 -
422:
ゆな
夜中更新するんじゃないんですか?寝むいけど待ってるんですが。
2006-01-16 05:12:00 -
423:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
やっと落ち着きました(_
2006-01-16 05:39:00 -
424:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「もう泣くな。俺のこと…見てや」
千草は、彼女の髪の毛に顔を埋めた。
熱い想いに包まれながら、花はまぶたを下ろした。
まつげを濡らした粒は、顎へと流れ落ちる。2006-01-16 05:47:00 -
426:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「千草…」
「家見つけんの…難しいんやったら、俺と住もう」
彼女は、絡みつく腕を振り払うかのように、体をねじった。しかし、千草は彼女が離れないように、腕に力を込めていく。
「放し…」
「俺がおるやん!!」2006-01-16 15:08:00 -
427:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、逃れようとする彼女に叫んだ。
花は、ゆっくりと顔を上げる。
「…俺を見て」
うずくまるかのように体を伏せて、小さく呟く千草。2006-01-16 15:15:00 -
428:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼の強い想いが、花の胸を苦しくさせていく。
彼女の表情は、険しく歪んでいく。
…こんなにも強く想ってくれてるのに、心は…陽平を欲してる。
答えてあげれない悔しさに、花は唇をきつく噛みしめた。2006-01-16 15:28:00 -
429:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ごめん…」
乾いた喉に…掠れた声を流していく。
「…イヤや」
断られても、千草は諦めようとしない。
小さな子供のように、彼は彼女の背中にしがみついた。2006-01-16 15:33:00 -
430:
名無しさん
切ないなぁ(;Д;)千草も花のも気持ちわかるぅセツナイ…
2006-01-16 21:51:00 -
431:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
感想ありがとう。最近バタバタしてて、書くの遅くてごめんなさい。
2006-01-17 00:50:00 -
432:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「……ごめん」
引き下がらない彼を前に、花はうつむく。
「イヤや」
千草はギュッと彼女を包み、眉間にシワを寄せた。
自分が欲しがっている…相手。悲しいことに、2人の気持ちは絡み合うことがない。2006-01-17 00:57:00 -
433:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
無理と解っていても、千草は身を引きたくなかった。
“好きな人の幸せを願う”
そんなのは、テレビやマンガだけの話。
千草は、そんな気持ちになることができない。2006-01-17 01:00:00 -
434:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
好きなら、やっぱり…自分の手で幸せにしたい。
これが、ここ数日悩んで…出た答え。
陽平が好きなら、身を引こう。応援しよう。
そう思ったりもした。2006-01-17 01:02:00 -
435:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
でも、素直にそう思うことが出来ない。
花が欲しい。
花といたい。
花がいい。
俺をみて。2006-01-17 01:04:00 -
436:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
陽平のことで泣き崩れる彼女を見て、頭の中に浮かんだ言葉は…
“俺ヲ選ンデ”
…これだった。2006-01-17 01:06:00 -
437:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
何の音もない静けさに、2人の吐息だけが熱を絡ませ…唇の外へと広がっていく。
花は、言葉が見つからず…困り果てていた。
「ごめん。困らせてるんは…解ってる。でも、花だけは渡したくないねん。花だけでいい。他は…何もいらんから」
千草は、彼女をチラリと見て…顔を歪めた。そして、駄々をこねる自分を恥じていく。
でも、気持ちは撤回しない。2006-01-17 01:19:00 -
438:
名無しさん
うわぁもうたまらん??切なすぎる?胸痛いやん?芽衣チャン頑張って書いてな?この小説ほんま好きやわ?
2006-01-17 02:34:00 -
439:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
ありがとう(>д
2006-01-17 15:36:00 -
440:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
花は、瞳を閉じて…深く息を吸った。
小刻みに震える彼の手を、握り返してあげれない…悔しさ。
もう…嘘はつきたくない。
花は意を決し、彼の瞳を強く見た。2006-01-17 15:40:00 -
441:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「…千草。落ちついて…聞いて」
優しく…彼の髪の毛を撫でていく。
千草は、怯えるような目を彼女に向けた。
「…あたし、千草のこと…大事に思ってるねん。……最初は嫌な奴やと思ってたけど、今は…ほんまに大切な人」2006-01-17 15:44:00 -
442:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
花の優しい口調に、千草は潤ませた瞳を落とし…下唇を噛んだ。
「だからこそ、利用したくないねん。…つらいから、しんどいから…千草と付き合う。そんなんは…間違ってるから。」
花は、胸に詰まる彼への思いを…途切れ途切れに囁いていく。
「だから、千草とは付き合われへん。千草を大事にしてるからこそ、そんなことは…絶対にしたくないねん」
力強く答える彼女に、千草は崩れるかのように…肩を落とした。2006-01-17 15:53:00 -
443:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
力を抜いた腕が、体からスルスルと離れていく。
花は、彼の髪に触れていた手に、やるせない思いを込めた。
指と指の隙間から、柔らかな髪の毛が流れる。
「…わかって」
彼を映した視界は、次第に歪んでいく。2006-01-17 16:01:00 -
444:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
まばたきと共に、頬は濡れていく。
花は、静かに涙を流した。
タタミに滲む…涙の粒。
それを眺め、千草は唇から歯を放し、深いため息をついた。2006-01-17 16:07:00 -
445:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
受け入れたくない…結果。
出来ることなら、もう一度…駄々をこねたい。
でも、きっと…そんなことをしても、花は俺を選んでくれない。
千草は、涙を浮かべた目に彼女を映す。2006-01-17 16:15:00 -
446:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そして、最後のワガママとして…彼女を抱きしめた。
…強く…強く、想いを込めて。
この腕を放せば、もう…こんな風に彼女を想うことも出来なくなる。
千草は、微かな時間を胸に刻み込んだ。2006-01-17 16:18:00 -
447:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「…わかった」
彼女の髪の毛に顔を埋め、噛みしめるかのように…その台詞を呟く彼。
…手に入らなくても、自分を大切にしてくれている気持ちがある。
叶わぬ想いは、彼女の優しさで溶けていく。
彼の言葉に、花は目を見開き…そして優しく視界を塞いだ。2006-01-17 16:24:00 -
448:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
【つづく】
2006-01-17 16:30:00 -
450:
あすか
しおり??
2006-01-17 18:54:00 -
454:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
皆さん、本当にいつもありがとうございますo(_ _*)o
2006-01-18 08:54:00 -
455:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
コトン…。
部屋へと戻った千草は、棚の横に立ててある鏡に自分を映した。
頬を縦に切る…一筋の跡。
彼は、指先でそれを消していく。
もう…彼女を忘れなければならない。2006-01-18 14:43:00 -
456:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は濡れた指先を擦り、ポケットから煙草を取り出した。
煙を吸い込み…ゆっくりと吐き出す。
だが、うまく吸うことが出来ない。
吸って吐く中で、唇は震え…涙が溢れてくる。
彼は声を押し殺し、一晩中…涙に溺れていた。2006-01-18 14:47:00 -
457:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「俺もこの部屋出ていくから、3月の末までに…部屋見つけといて」
朝を迎え、2人がリビングに顔を出すと…陽平は玄関で靴を履いていた。
背を向けたまま、淡々と用意を済ませた彼は、先に部屋を出ていく。
残された2人は、数回会話を交わし…仕事場へと向かった。2006-01-18 14:56:00 -
458:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「桜井、これ。基盤先のリストや」
騒がしい社内で、上司から束ねた資料を受け取る陽平。
彼は、デスクにヒジをつき…それを眺める。2006-01-18 15:00:00 -
459:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
紙を持つ手は、脳内に浮かぶ記憶によって停止する。
…元嫁が言った…最後の言葉。
震える指先は、紙にシワを作り出す。
陽平は、険しい顔で…一点を見つめていた。2006-01-18 15:04:00 -
460:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
確かに、妊娠がキッカケで…俺たちは結婚した。
でも、愛してなかった訳じゃない。
…若すぎたから、余裕がなかっただけ。
俺は…俺なりに頑張っていた。2006-01-18 15:07:00 -
461:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
生活費を稼ぐ為に…仕事に打ち込んできた。
でも…彼女の言うとおりかもしれない。
心のどこかで、自由を失ったことを…恨んでいたかもしれない。2006-01-18 15:10:00 -
462:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
昔から…そうやった。
俺は、いつも同じ理由で人を失ってきた。
自分でも…自覚している理由。
…俺は、人と…深く付き合えない。2006-01-18 15:12:00 -
463:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
人に近づくときも、触れ合うときも、いつだって…俺は一線を引いている。
別に意識をして…引いているわけじゃない。
ただ、深く…込み入ることが出来ないだけ。
そうやって、何人もの人間を振り払ってきた。2006-01-18 15:15:00 -
464:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
元嫁にも…花にも、同じ理由で突き放してきた。
自分にいっぱいいっぱいで、自分が一番大切で、面倒なことから…逃げてばかり。
でも、愛してなかったわけじゃない。
こうするしか…出来なかった。
こんな風にしか、愛せなかった。2006-01-18 15:18:00 -
465:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
…その日から数日間、3人は別々に…部屋を見つけていく。
「ここと…ここに書いてほしいねん」
3月の末を目前にした…休日。
花は、父親の家に訪れていた。2006-01-18 15:23:00 -
466:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そこは、以前とは打って変わった空気が佇んでいる。
あの親子が出ていった…殺風景な家。
保証人を原因に部屋は見つからず、花は唇を噛んで…父親に連絡をした。
予想外に、事は淡々と進んでいく。
父親は嫌がることもなく、静かに受け入れてくれた。2006-01-18 15:31:00 -
467:
きさ
主さん頑張ってね?
2006-01-18 15:33:00 -
468:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「…また、家に…遊びにおいで」
最後の箇所にハンコを押しながら、父親は…弱々しく囁いた。
その言葉を耳に、花は父親をジッと見つめた。
こぢんまりとした…体。
あんなに大きく威圧感を漂わせていた父親は、いつのまにか…こんなに小さくなっていた。2006-01-18 15:40:00 -
469:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
きさサン、いつも応援ありがとo(_ _*)o
2006-01-18 15:41:00 -
470:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ちゃんと…ご飯食べてるん?」
花は、ポツリと小さく声をかけた。
「最近は…コンビニ弁当やな」
父親は下を向いたまま…答える。
家に訪れてから、初めて交わす…まともな言葉。2006-01-18 15:47:00 -
471:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ありがと。じゃあ、また…来るわ」
玄関のドアノブを手に、花はクルリと後ろを振り返る。
父親はコクリと頷き、優しく微笑んだ。
少し開けたドアの隙間から…明るい光が射し込んでくる。
花は腕の動きを止めて、顔をしかめた。2006-01-18 15:51:00 -
472:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そして、鞄の中から書類を取り出す。
不思議そうに見る父親の視線を背に、彼女はそれをゆっくりと破いた。
「お前っ…」
突然の行動に、父親は身を乗り出し…草履を履いた。2006-01-18 15:54:00 -
473:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「お父さん、あたしの料理…食べたことなかったよな?」
花はニコッと振り返る。
父親は眉間を寄せたまま、口を少し開いた。
「…コンビニ弁当よりは、おいしいと思うで」
そう言って、彼女は優しく笑みを見せた。2006-01-18 15:58:00 -
474:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
外から入り込んでくる、暖かい季節の風。
…もうすぐ春。
まだ…それは冷たくて、肌は慣れていない。
花は、父親と住むことを…決意した。2006-01-18 16:02:00 -
475:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「誕生日、おめでとう」
3人で過ごす最後の夜、花は千草と2人で…陽平を祝う。
そこは、花のときみたいに…出来る限り部屋を華やかに飾っていた。
玄関口で立ち尽くす彼は、驚いた表情で足を近づけてくる。2006-01-18 16:14:00 -
476:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
鮮やかな色を広げた料理、数本のローソクに灯る…暖かな赤。そして、それに照らされた柔らかな微笑み。
視界に映る…淡い空気に、陽平の胸は罪悪感を点滅させていく。
「ほら、火ぃ吹いてっ」
花は、呆然と立つ彼に声をかけた。2006-01-18 16:22:00 -
477:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
陽平はゆっくりと腰を下ろし、息を吹いていく。
火が消えると共に、真っ暗になる部屋。
千草はスクッと立ち上がり…電気をつけようとした。
そのとき、陽平の声が微かに聞こえてくる。2006-01-18 16:26:00 -
478:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「…ごめんな」
乱れた呼吸に揉まれながら、囁かれる言葉。
静かな空間に、鼻水をすする音だけが流れていく。
…今まで自分のことばかり考えてきた。
そんな俺に、2人は最後まで優しく…過ごそうとしてくれる。2006-01-18 16:30:00 -
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芽衣 ◆rd1jJ3btsE
泣き崩れる彼に心を打たれながらも、2人は賑やかに振る舞っていく。
3人で過ごす最後の夜は、今までで1番…心を通わせることの出来た時間になった。2006-01-18 16:35:00 -
480:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「じゃあ、これ」
「今までありがと」
翌朝…最後の荷造りをする陽平に、花と千草は鍵を手渡していく。
赤と水色のリボンをくくりつけた…同じ鍵。
陽平は、それを受け取ると…ポケットにしまい込んだ。2006-01-18 16:41:00 -
481:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、彼のポケットを眺め…深呼吸をする。
そして、足元に置いていたバックに手を伸ばした。
「じゃあ、俺…行くわ」
そう言って、部屋を後にする。2006-01-18 16:44:00 -
482:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼を見送った後、残された2人は顔を見合わせた。
「…じゃあ、あたしも」
気まずさが広がる前に、花は彼から目を逸らし…荷物を背負う。
「また、遊ぼな」
花は、その言葉を置いて靴を履いた。2006-01-18 16:47:00 -
483:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
…この部屋の匂いも、最後。
花は、ゆっくりとそのドアを閉めた。
…初めてこの場所にきた日が、つい最近のことのように思えてくる。
一段一段…階段を踏みしめる度に、今までの数ヶ月が蘇っていた。2006-01-18 16:53:00 -
484:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「100均…行こっかな」
花は、階段を下り終わると…ポツリとつぶやいた。
そして、コンクリートの建物に背を向け…歩き出す。
一方、ひとり残された陽平は…再度荷造りを進めていく。2006-01-18 16:58:00 -
485:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
電気を消した…数々の部屋には、たくさんの思い出が詰まっている。
元嫁や子供と過ごした日々。そして、花や千草との…賑やかな空気。
それは、全て…ダンボールの中には入らず、今も余韻を広げている。
違う形にすることが出来たのかもしれない。
彼の中で、様々な悔いが込み上げていた。2006-01-18 17:03:00 -
486:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ありがとうございました。またお越しくださいませぇ」
店員の声を途切る…自動ドア。
花は、百円均一の店を後にし…父親が住む家へと足を進めていく。
そして上を向いた。2006-01-18 17:06:00 -
487:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
ふんわりとした雲を浮かべる、青の空。
彼女は白いナイロン袋をギュッと握りしめ、瞳を閉じた。
…長い冬が終わっていく。
2006-01-18 17:09:00 -
488:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
この数ヶ月、陽平と住んだことによって…素直な気持ちをもてた。
何年もの間、塞ぎ続けてきた想い。
結果は、実らなかった。
でも、後悔はしていない…。2006-01-18 17:12:00 -
489:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「やっと、前に進める…かな」
太陽の光に照らされた…彼女の表情は、どこかスッキリとしていた。
「さぁ、さっさとこれ片づけて…手料理食わせらな」
父親とは、少しずつ…話せるようになってきた。きっと、いつか…本当の親子に戻れる日が…絶対にくる。
花は、凛とした表情で家へと向かった。2006-01-18 17:17:00 -
490:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「よしっ、後は事務局行くだけやな」
荷物を全て運び終えた陽平は、ポケットに手を入れた。
2人から受け取った鍵を、手のひらで包み…眺める。
そして、リボンを外していく。2006-01-18 17:20:00 -
491:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「はぁ、やっと取れた」
きつく結びつけられた赤いリボンを外し、一息つく。
そして、千草の鍵に目を向けた。
「…あ、こっちはメッチャ緩い」
独り言を呟きながら、緩んだ結び目を解いていく。2006-01-18 17:24:00 -
492:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そして、目を見開いた。
水色の布には、鉛筆で記された…薄い文字。
それを眺め、彼の表情は重く化していく。
そして、リボンを強く握りしめ…部屋を飛び出した。2006-01-18 17:27:00 -
493:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「そろそろ気づくかな」
新しい部屋にたどり着いた千草は、時計を眺める。
彼は、昨夜…鍵を彩るリボンに願いを込めていた。
「…ほんまに、面倒くさい奴ら」
そう言って、ダンボールに入っている荷物を片づけていく。2006-01-18 17:32:00 -
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芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そのとき、突然…インターホンの音が部屋中に広がっていく。
千草は不思議そうに立ち上がり、玄関のドアを開けた。
そして、ポカンと口を開く。2006-01-18 17:34:00 -
495:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼の元に訪れたのは、事務員の彼女だった。
驚いた表情の千草は、少し下を見て…優しく微笑んだ。
「部屋片づけんの…手伝ってくれる?」
その笑顔は、昔の彼を映し出すかのようなものだった。
微かな希望の光が、彼に差し込んでいく。千草は、彼女に心を開き始めていた。2006-01-18 17:41:00 -
497:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「買いすぎたかも…」
帰りしなスーパーに寄った花は、ナイロン袋を覗きながら歩いていた。
自然と3人分買う癖がついている。
花は、そんな自分をクスクスと笑いながら…顔を上げた。2006-01-18 17:44:00 -
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芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そして、目が点になる。
2006-01-18 17:45:00 -
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芽衣 ◆rd1jJ3btsE
“松浦”と記した表札は、陽平の背中で隠されていた。
立ち止まる彼女は、呆然と彼を眺めている。
「…ごめん」
ポケットの中のリボンを強く握り、陽平は気まずそうに目を伏せた。2006-01-18 17:50:00 -
500:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼女の瞳は次第に潤んでいく。
「夕飯…食べてってよ。多めに買ってもたから…」
涙に濡れた笑顔で、彼へと走っていく。
花は、後悔を抱えた彼の胸へと飛び込んだ。
春を描くアスファルトには、ポトリと落としたナイロン袋と…重なる影。2006-01-18 17:56:00